NI Reaktor の音色プログラム管理

概要

Reaktor (Reaktor 5.5 を想定) ではサウンドパッチ/プログラムのことをスナップショット (Snapshot) と呼びます。 スナップショットにはインストゥルメントレベルのものとアンサンブルレベルのものがあります。 インストゥルメントレベルのスナップショットはインストゥルメントヘッダーで選択することができます。
Instrument Header

サイドペインのスナップショットタブではインストゥルメントだけでなくアンサンブルのスナップショットも選択できます。 スナップショットタブではまずどのインストゥルメント/アンサンブルのリストを表示するか選ぶ必要がありますが、Linked ボタンを押しておくと、パネルビューやストラクチャービューで選択したイントゥルメント/アンサンブルのリストに自動的に切り替わります。
Snapshot tab

メインツールバー上のスナップショットリストには「Snapshot Master」となっているインストゥルメント/アンサンブルのリストが表示されます。
Main Toolbar

128個のスナップショットが 1バンクとして管理され、各インストゥルメント/アンサンブルは最大 16バンク持つことができます。

基本操作

スナップショットをバンクに保管するための手順は以下の通りです。 Store ボタンはスナップショットタブの下部にあります。 (この記事ではバンクにストアすることを「保管」、ファイルにセーブすることを「保存」というように言葉を使い分けます。)

  1. Store ボタンを押す。
  2. 必要に応じて名前を変更する。
  3. もう一度 Store ボタンを押す。

2度めのボタンを押す前であれば、Esc キーで操作をキャンセルすることができます。 Append や Insert は最初の空きスロットに入れたり、選択しているスナップショットの直後に挿入して保管するためのボタンですが、これらも操作を確定するには2回押す必要があります。

Append 操作を行った時、現在のバンクが一杯のときは次のバンクに保管してくれます。 16バンクを使い切る前であれば、必要に応じ新規バンクを作るかどうか聞いてくるので、新規音色を作成した場合は Append ボタン操作がお手軽だと思います。

ファイルへの保存

バンクにストアしただけでは Reaktor を終了すると消えてしまうので、作成したスナップショットは OS のファイルとして保存しなければなりません。 アンサンブルファイル (.ens) として保存した場合はスナップショットも含めて保存されます。 Reaktor の場合、アンサンブルファイルを用いてシンセの構造と合わせてスナップショットを管理するのが間違いが起こりにくいと思いますが、やろうと思えば、スナップショットのみをスナップショットバンクファイル (.ssf) として保存することもできます。 名前の通り、保存はバンク単位に行われます。

この操作はスナップショットタブのメニューより、「Edit」-「Save Bank」を実行します。 読み込みもここの「Load Bank」で行います。
Menu

ちなみにスナップショットを削除する場合もこちらのメニューから「Delete selected Snapshots」ですね。

MIDI での切り換え

MIDI プログラムチェンジでスナップショットを切り替える場合は、「Recall by MIDI」がチェックされている必要があります。 プログラムチェンジ 0 ~ 127 でスナップショットバンクのスロット 1 ~ 128 に対応します。 この対応は変更する機能は無いようです。

複数インストゥルメントを含むアンサンブルの扱い

デフォルトではアンサンブル中の各インストゥルメントのスナップショットは個別管理となっていて、保管や呼び出しはそれぞれのインストゥルメントで行わなければならないです。 複数のインストゥルメントで一つのサウンドを作っている場合、まとめて保管したくなると思います。

そのような時は、子インストゥルメントで「Store by Parent」をチェックしておくと、親 (Parent) のスナップショットと合わせて子インストゥルメントのスナップショットもストアされます。 ここで言う親とは文字通りの意味で、インストゥルメントの中にインストゥルメントを作った場合の親子関係のことを指しています。 また、アンサンブルは全インストゥルメントの親ということになります。 この項目はプロパティタブの Function ページにあります。

このとき気をつけなければならないのは、バンクにストアするときに親のバンクだけでなく、子のバンクも同じ名前に書き替わることです。 この動作を考慮すると、子インストゥルメントのファクトリープリセットを組み合わせて作ったような音色であったとしても、今のバンクスロットを書き替えてしまうより Append で空きスロットに入れていく方が管理しやすいように思います。

また、同じページにある「Snapshot Master」にチェックをつけたインストゥルメント/アンサンブルはスナップショットマスターとなります。 スナップショットマスターが持つスナップショットのリストは、プラグインとして動作するときのホスト上のプログラムリストやメインツールバー上のスナップショットリストとなります。

というわけで複数のインストゥルメントを持つアンサンブルでは以下のように設定し、アンサンブルレベルのスナップショットで音色管理するのがお勧めです。

  • アンサンブルについて「Snapshot Master」と「Recall by MIDI」をチェック
  • 各インストゥルメントについて「Store by Parent」と「Recall by Parent」をチェック

このように設定すれば、アンサンブルのスナップショット操作を行うと全てのインストゥルメントのデータが保管/読み込みされることになります。 ちなみに、「Recall by Parent」をチェックし忘れると、アンサンブルの音色切り替え時に子インストゥルメントのスナップショット名は変わっているけれど、音色が切り替わっていないという状態になってしまいます。

スナップショットの中身

スナップショットは情報としてパネルコントロール (フェーダー、ノブ等) と MIDI コントローラー (MIDI イベントとの紐づけ) の設定値を持っています。 簡単に言うと、各部品の設定値を読んだり書いたりしているということです。

各パネルコントロールのプロパティ (Function ページ) を確認すると「ID for Files」という ID があります。 この ID に紐づいて設定値が保存されるので、これを変えてしまうと保存してあるスナップショットの値を正しく読めなくなります。

また、同じページにある「Snap Isolate」をチェックするとこのパネルコントロールの情報はスナップショットに含めないようになります。 一時的で保存する必要のない情報を持つコントロールについてはここをチェックします。

まとめ

これでスナップショットの基本はこなせたと思いますが、全てではありません。 他にも、コンペア機能の他、スナップショット間のモーフィングだとかランダムだとか楽しそうな機能もあるので、興味があれば「Application Reference」マニュアルを読んでみましょう。

同様に最近の一連のエントリで Reaktor の基本操作はできるようになるかも知れませんが、説明できていない機能はたくさんあります。 それでもここまででパッケージ付属のインストゥルメントを活用するための基礎知識は何とかカバーできたように思いますので、後は必要に応じ製品付属マニュアルを読んでいただければと思います。 とりあえずは「Getting Started」マニュアルですね。

国内 Reaktor ユーザが増えることを願いながら、Reaktor に関しては今回で一区切りつけます。

Reaktor で複数シンセのレイヤー作成

複数のシンセ音色を重ねて1つにする「レイヤー」は、手軽にできる割に効果の大きい初心者向き音作り手法の一つです。 以前、Cubase 上で VSTi をレイヤーするセッティングを紹介しましたが、今回は Native Instruments Reaktor の中で複数インストゥルメントを重ねてみます。 このような記事を読んでいる方は恐らく初心者だと思うので、前回の Reaktor の基本事項の説明も合わせて読んでみてください。

作成する Ensemble の概要

アナログタイプと FM シンセの組み合せということで、SoundSchool Analog と FM4 の2つのシンセ Instruments のレイヤーを作ってみます。 また、ミキサー Macro を使いますが、Macro レベルでは操作パネルを持つことができないので、空 Instrument に Macro を追加します。 したがって、以下の3つの Instruments で構成される Ensemble を作成することになります。

  • SoundSchool Analog
  • FM4
  • ミキサー

ちなみに Instrument と Macro を比べると、Macro はパネルを持てない他、スナップショットや MIDI/OSC の設定も単独では持つことができません。

インストゥルメントの配置と接続

「File」-「New Ensemble」を選び、新規アンサンブルを作成します。 ストラクチャビューを表示し、一番上の階層 (下図) に移動します。 上の階層に移動するには、何もないところでダブルクリックか、コンテキストメニューの「Parent」でしたね。
structure view 1

コンテキストメニューから以下のようにメニュー選択して2つのシンセとミキサーをインサートします。

  • 「Instrument」-「Synthesizers」-「SoundSchool Analog」
  • 「Instrument」-「Synthesizers」-「FM4」

オーディオ入力と初期 Instrument の間のワイヤーを削除し、位置を整理すると以下のようになります。
structure view 2

初期 Instrument の名前を「Mixer」と変更しましょう。 サイドペインのプロパティタブで変更できます。
instrument name

ついでに Ensemble の名前も「My Layer」に変えておきましょう。 ストラクチャービューの何もないところをクリックするとプロパティタブには Ensemble のプロパティが表示されます。

続いて、2つのシンセ Instruments と Mixer Instrument の間をワイヤーで結びましょう。 ANALOG と Mixer 間を結んでしまうと、Mixer の空きポートがなくなってしまいますが、心配はいりません。 FM4 の出力ポートから Mixer の「…」へ Ctrl を押しながらドラッグするとポートが増えるのです (ダイナミックポート)。 ここまでで以下のようになります。
structure view 3

ここで2つのシンセ Instruments の同時発音数や MIDI の設定が同一になるようにします。 具体的には、FM4 のプロパティタブ - Function ページ - Voice Allocation メニューで「Voice & MIDI slave to」を「ANALOG」に設定します。 これにより、FM4 のポリフォニックボイスと MIDI の設定は SoundSchool Analog の設定を引き継ぐことになります。 「Voice & MIDI slave to」はレイヤー時に便利な設定です。
voice allocation

ちなみに MIDI の設定は Instrument プロパティの Connect ページで行います。 シーケンサー Instrument とシンセ Instrument を接続するときはこのあたりの設定が必要となります。

Mixer マクロの追加

Mixer Instrument をダブルクリックしてこれの内部構造を表示します。
structure view 4

コンテキストメニューより以下を選択して Mixer マクロを追加します。

  • 「Macro」-「Classic Modular」-「02 Classic Modular – Mixer, Amp」-「Mixer – Simple – Stereo」

入力ポートをきちんと整理して配置し、Mixer マクロにつなぎます。 ポートの名前もわかりやすいよう変更しておきましょう。

前回の記事を思い出して欲しいのですが、Instrument の入出力ポートはモノフォニックです。 なので、Mixer はモノフォニックモードで動かせば十分です。 「Audio Voice Combiner」モジュール (「}」表示) は不要なので削除し、Mixer と出力ポートを直結し、Mixer をモノフォニックモードに設定します。 Mixer の右下ランプがオレンジになりましたね。 ここまでで以下のようになります。
structure view 5

パネルビュー

さてここでパネルビューに切り替えましょう。 各 Instruments が横に並んでいるかも知れないので、ドラッグして縦に並べておきます。 ミキサーもここから操作できます。 FM4 と SoundSchool Analog のスナップショット (パッチ) を切り替えてミキサーでバランスを取ってみましょう。
panel view

まとめ

というわけで、シンセのレイヤー構成ができました。 「Save Ensemble As」でアンサンブルファイルを保存しておきましょう。 正直言って自分としてはこの程度 Reaktor がいじれれば十分という気がしています。 自分でシンセをデザインしても、パッケージ付属のものより良いものができる気はしないですし。

とは言っても、Instruments を組み合わせて使うにも前回の記事程度のことは知っておくべきでしょう。 シーケンサー+シンセの組み合わせは「Getting Started」マニュアルに載っているので興味があれば読んでみてください。 次回は作成したサウンドを保存する機能、スナップショットについてまとめて一旦 Reaktor の話は終わりにしたいと思います。

Reaktor でマイシンセ作っちゃう?

前回に引き続き Native Instrument Reaktor 5.5 を使います (既に最新版は 5.6 になっていますが、まだアップグレードできていません)。 今回は Reaktor でマイパッチを作るだけでは飽き足らず、「マイシンセ作っちゃうよ!」という野望をいだいている人向けです。 パッチを作るのとシンセを作るのは次元の違う話なのですが、一応前回に続けて読めるようには書いてみますので、シンセ初心者でも興味のある方は読み進めてみてください。

良く使うボタン等

最初にタブ・ボタンを説明しておきます。 全部説明するとなると大変なのですが、かと言って使うものだけっていうのも中途半端だったりするので、サイドペイン (左画面) のタブとサイドバー (マニュアル読んでも「サイドバー」と呼び方が確定しているか微妙な感じですが) 上方のボタンを一通り説明します。 まずは、サイドペインのタブの一言説明です。 左からの順番で、太字は今回使用するものです。

1. Browser タブ
ファイルブラウザ
2. Snapshot タブ
スナップショット (音色パッチ)
3. Panelsets タブ
パネルセット (表示パネルの選択)
4. Properties タブ
プロパティ

続いて、サイドバー上のボタンの一言説明です。 上からの順番です。

1. Panel ボタン
パネルビュー (シンセ等の操作画面)
2. Structure ボタン
ストラクチャービュー (シンセ等の内部構造画面)
3. Panel Split ボタン
パネルビュー+ストラクチャービュー
4. Structure Split ボタン
2つのストラクチャービュー
5. Split Orientation ボタン
縦分割/横分割切り換え
6. Panel Lock ボタン
パネルの編集可否切り換え
7. MIDI Learn ボタン
Reaktor コントロールに MIDI コントロールチェンジを割り当てるためのボタン

ストラクチャービュー

Reaktor の凄さはストラクチャービューを見るとわかります。 前回の手順で SoundSchool Analog をロード後、Structure ボタンを押してストラクチャービューを表示してみましょう。

ここで「ANALOG」と名前のついた四角形 (オブジェクト) をダブルクリックしてみましょう。

ずいぶん細かくなりました! これが SoundSchool Analog の内部構造です。 何と Reaktor ではこの内部構造をいじることができるのです!

更に「LFO」オブジェクトや「Filt-Env->Osc」オブジェクトをダブルクリックすればそれらの内部構造が表示されます。 上位の階層に戻るには何も無いところでダブルクリックします。 コンテキストメニュー (「Structure」で下位、「Parent」で上位) を使うこともできます。 階層をあっちこっち移動してみるといじりたくなって来ませんか?

Reaktor の階層構造を知ろう

まず Reaktor で使用できるオブジェクトの階層を知っておきましょう。 Reaktor ではアンサンブル (Ensemble) が最上位概念で、通常 OS ファイルへのセーブ/ロードはアンサンブル単位で行うことになります。 インストゥルメント (Instrument) はその下の概念で、Reaktor には最初から 70種類以上の Instruments がついてきます。 これらはシンセ/エフェクター/シーケンサー等です。 先のエントリではそのうちの一つ SoundSchool Analog を使いました。

下の図が示すように、Instrument の下にも様々な階層の部品があります。 全部ひっくるめて「オブジェクト」という言い方もします。


REAKTOR 5.5 – Application Reference p.21

図を見ていると何故 Core Modules 系統とただの Modules (Primary Level Modules と言います) の2系統があるのか不思議な感じがしますが、Core の方が新しいテクノロジーということです。 マニュアルにも以下のように今後は Core 系の方に力を入れると書いてあります。

In the future, Native Instruments will put less emphasis on creating new primary-level modules. Instead, we will use our new Reaktor Core technology and provide them in the form of core cells.
REAKTOR 5.5 – Core Reference – p.17

いずれのオブジェクトもリファレンスマニュアルが用意されています。 とりあえずは Core Modules だ、Primary Level Modules だ、という分類は気にせず、眺めてみて使いたくなった部品を使えば良いと思います。

Ensemble を作る上で知っておいた方が良いこと

簡単に言ってしまえば、ストラクチャービュー上でオブジェクトを配置し、入力ポートと出力ポートの間をドラッグしてワイヤーで結ぶことでシンセ/リズムマシン/エフェクター等を作ることができます。 ただ、やはり基本を知っていないとなかなか辛いものがあるので、その辺をまとめてみます。

オーディオ信号とイベント信号

オブジェクト間のワイヤー上を流れる信号にはオーディオ信号イベント信号があります。

オーディオ信号
サウンドそのもの。 サンプリングレートがクロックとなる。
イベント信号
トリガー信号や エンベロープ/LFO 等のコントロール用信号。 コントロールレートがクロックとなる。

コントロールレートはサンプリングレートに比べて低レートなので、どちらの信号でもできるようなことはイベント信号で対処した方が負荷が小さくなります。

ポートについて

オブジェクトの左側にあるのはインプット (入力) ポート、右側にあるのがアウトプット (出力) ポートとなります。

  • 単一出力ポートから複数入力ポートへの接続は OK
  • 複数出力ポートから単一入力ポートへの接続は NG

オブジェクトに「…」が表示されていれば、Ctrl (Cmd) キー押しながら接続するとポートが増えます。 これはダイナミックポートと呼ばれる機能で、特に複数の出力を受けるモジュールでは良く使われます。

ところで、各オブジェクトのポートを良く見ると色が異なるポートがありますが、これは扱える信号の違いです。

黒いポート
オーディオ信号専用のオーディオポート。
赤いポート
イベント信号専用のイベントポート。
緑 (灰緑)
オーディオ信号もイベント信号も扱えるハイブリッドポート。

ハイブリッドポートはオーディオポートと結ぶと黒くなります。 接続しているのに灰緑のままのポートはイベント信号用です。 イベント出力ポートをオーディオ入力ポートに結ぶことはできますが、逆をするには「A to E」モジュールを間に挟まなければなりません。

下の図で Peak Detector モジュールの Rel はイベントポート、In と Out はオーディオポートです。 Add (+) モジュールのポートは全てハイブリッドポートですが、Peak Detector の Out と入力ポートを結ぶと全てがオーディオ用となり黒くなります。

ポリフォニック

シンセを使ったことがある人は知っていると思いますが、複数の音を同時発音できるモードをポリフォニックモード、単音のみ発音できるモードをモノフォニックモードと言います。 ポリフォニックモードで動いているときは、ストラクチャービューの一本のワイヤー上で複数の音の信号が並列で流れているイメージです。 大抵のオブジェクトはどちらのモードでも動作可能で、コンテキストメニューやサイドペインの Property タブ Function ページで「Mono」をチェックしておくとモノフォニックモードになります。

そのオブジェクトがポリフォニックモードで動作しているかモノフォニックで動作しているかは右下のランプを見ます。

  • 黄色はポリフォニックモード
  • オレンジはモノフォニックモード
  • グレーはアクティブ化されていない、すなわちきちんと接続されていないため信号のパス上にいないオブジェクト
  • 赤い「M」の表示はミュートされたオブジェクト

ポリフォニックかモノフォニックかで接続に制限がでてきます。 モノフォニックな出力ポートをポリフォニックな入力ポートへ接続することはできますが、逆をするには「Audio Voice Combiner」モジュール (「}」表示のモジュール) を間に挟まなければなりません。 入力ポートが「×」表示になっているのはポリ→モノに接続されていることを意味しており、この状態ではポートはミュートされています。 下の図では LFO がポリフォニックモード (黄)、Add (+) モジュールがモノフォニックモード (橙) のためエラーとなっています。

また、最終的な出力ポートにはモノフォニックモードにして送らなければなりません。 同様にインストゥルメントの入出力もモノフォニックモードとなります。 大抵のシンセインストゥルメントの出力はモノフォニックモードサウンド出力×2のステレオ仕様となっています。

同時発音数とユニゾンの設定

インストゥルメントのプロパティの Function ページにある Voices の設定で何音同時発音かが決まります。 8 にセットすれば「8音ポリ」ということになります。 ちなみにパネルビューからインストゥルメントのプロパティを表示するには、インストゥルメントヘッダのインストゥルメント名をクリックするのが簡単です。

ただし、ユニゾンボイスの設定 (上画面の下の部分) で実際の同時発音数は減ってしまうかも知れません。 ユニゾンボイスは 1つのノートイベントで複数同時発音させ、厚い音を作るための設定です。 いくつ重ねるかの最低値 (Max Voices) と最大値 (Min Voices) を設定できます。 例えば、Voices = 8、Min Voices = 2 であれば実際の最大同時発音数は 4 になります。

Spread でどれだけチューニングをずらすかを指定します。 先の SoundSchool Analog の Unison Det. はこの Spread パラメータそのものです。 Min/Max Voices を 2以上に変更して、Spread を上げてみましょう。 上げ過ぎると気持ち悪くなりますが。

まとめ

とりあえず、ここまで理解すれば「Getting Started」マニュアルを読んで「?」と思うところも少なくなるのではないでしょうか? 初心者がこれだけでインストゥルメントの中身を理解するのは難しいかも知れませんが、これらの基本事項の理解なしでは先に進めないと思います。 経験者ならば、後はリファレンスマニュアルを読みつつ付属のインストゥルメントをいじっていくと何とかなる、かな?

次回ももう少し Reaktor について書きます。

シンセサイズ入門実践編: NI Reaktor の巻

この記事は Reaktor に付属する「インストゥルメント」の一つである「SoundSchool Analog」というシンセを使って音作りを学ぼうというものです。 Reaktor 上でシンセを作る方法を知りたい方は「Reaktor でマイシンセ作っちゃう?」をどうぞ。

音作りこと始め - プリセット音からの出発

前回のエントリを読んでシンセサイズの基本を押さえたら、あとは実践あるのみです。 と言ってもいきなり自由にシンセを扱えるようにはならないので、まずはプリセット音を分析することから始めましょう。 一から音色作りができる才能と時間があれば良いのですが、一般人はなかなかそうは行かないのでプリセット音色をスタートポイントにするのが吉なのです。 余分な要素を削ったプリセット音を複数重ねてまとめるだけで十分立派な音作りになります。

プリセット音を分析するには以下のようなことを試し、どの要素がそのサウンドの鍵となっているかを把握します。 そのサウンドの特徴を決めるパラメータはパッチ/プログラムごとに異なっているはずなので、多くのサウンドについてこれを行えばそれだけ様々な発見があると思います。

  • エフェクトを OFF にする。
  • 複数のオシレータで構成されているサウンドは、オシレータ (オペレータ) を一つずつミュートしてみる。
  • LFO の効果を OFF にする。
  • その他にも気になるパラメータを OFF にしてみてどのようにサウンドが変わるか観察する。

このように試して「変化が大きい」と感じたところがそのサウンドの肝なのです。 と言ってもみんな感性が違うので「ここだ!」と思うところは人それぞれかも知れませんが、それで良いのです。

Reaktor で実践だ!

今回は Reaktor 5.5 付属インストゥルメント「SoundSchool Analog」のプリセット音を眺めてみます。 SoundSchool Analog はその名の通り、アナログタイプ (減算方式) の音作り入門用にピッタリなシンセサイザーです。 同じ Native Instruments (NI) 製の Kontakt に比べたら話題にのぼることの少ない Reaktor ですが、実はとても奥深いソフトです。 Reaktor の奥深さの説明は後でするので、今の段階では Reaktor という入れ物があってその中で SoundSchool Analog というシンセを使うというイメージを持って進んでください。

起動して構成を確認しよう

今回は Reaktor をプラグインとしてではなく、スタンドアロンモードで起動して使うことにします。 Reaktor には Native Instruments の他のソフトで見られるような鍵盤 GUI は付いていません。 コンピュータキーボードで弾くこともできますが、できれば MIDI キーボードを使いましょう。 初回起動時はオーディオ/MIDI のセットアップ画面が表示されるので適切に設定します。

起動したら SoundSchool Analog のアンサンブルファイルを読み込みます。 左のブラウザ画面で「FACTORY」を選び「Ensembles」-「Classics」-「Synthesizer」と選んで下に表示されたファイル名より「SoundSchool Analog.ens」をダブルクリックしましょう。
pulse

下の様な画面が表示されますが、これが SoundSchool Analog のエディット画面です。(クリックで拡大)
Panel A

2つのオシレータ、アンプリチュード(ボリューム)用とフィルター用の 2エンベロープ、1LFO を備え、ディレイエフェクトと更には波形を確認できるオシロスコープまでついています。 簡単に言うと 2VCO/1VCF/1VCA/2EG/1LFO ということになります。

インストゥルメントヘッダーの「A」ボタンと「B」ボタンで表示パネルを切り替えることができます。 SoundSchool Analog では「B」を押すとブロックダイアグラム図が表示され、「A」ボタンを押すと元の編集画面に戻ります。
Instrument Header

「B」ボタンを押したときに表示されるブロックダイアグラム図は信号の流れの確認用で、この画面を使って特に何か編集できるわけではありません。 しかし、この画面を理解しておくことは重要です。(クリックで拡大)
Panel B

見てわかる通り、Oscillator 1/2 の出力を Mixer で混ぜて Filter で削り、Amp でボリューム調整して最後に Delay エフェクトがかかるという流れになっています。 また、Filter Envelope (「FILT-ENV -> OSC」モジュール経由) と LFO は様々な対象をモジュレーションできるようになっています。 矢印上の英字ですが、「P」はピッチ、「S」はシンメトリー (後述)、「A」はアンプリチュード (ボリューム) を表します。 LFO は Oscillator 1/2 のアンプリチュードをモジュレートすることはできませんが、その分 Amp、Filter カットオフをモジュレートすることが可能となっています。 オシレータの「A」と Amp のどちらをモジュレートしても音量を変化させることになります。 どこをモジュレートしたらどんな効果があるかは前回の記事を思い出してくださいね。

パラメータを眺めてみよう

さて、編集用パネルに戻りましょう。 前回の記事を理解していれば、半分ぐらいのパラメータについてはその役割が想像つくのではないでしょうか。 ここではわかりづらそうなパラメータのみを取り上げて説明します。 いじって効果を確認してみましょう。

Symm (シンメトリー)

Pulse (矩形波)であればパルス幅比が変化します。

Symm = 0
pulse
Symm = 0.5
pulse

Tri/Saw であれば Triangle (三角波) -> Saw (鋸波) と変化します。

Symm = 0
tri
Symm = 1
saw

Sine でも Saw と同じような変化をして Symm 値が増えると倍音が増えます。 これらの変化はオシロスコープで観察できます。

LFO にも Symm パラメータがありますが、これは LFO の波形のシンメトリーの設定ということになります。

Interval
半音単位のピッチです。
Sync
オシレータシンク (ハードシンク) 機能。
RingMod
リングモジュレータ機能。
FM
FM 合成機能。 これを上げることでオシレータ1 でオシレータ2 を周波数変調できます。 SoundSchool Analog は 2オペレータ分の FM音源として使うことができるのです。
Filter Mode
ローパスフィルター (LPF) だけでなく、バンドパスやハイパスフィルターも用意されています。 タイプの後の数字は大きい方ががっつり削られるフィルターということになります。
Detune/Unison Det.
いずれもピッチをずらすためのパラメータです。 ただし、「Unizon Det.」はユニゾンボイス (= 1つのノートイベントで鳴らすボイス数) が 2以上でないと意味ないのですが、ユニゾンボイスの設定は編集パネルからできないので、とりあえずいじらなくて良いです。 (いじってみたい人はインストゥルメントプロパティで設定します。)
K-Track
弾いた鍵盤の高さによってフィルターのカットオフ周波数を変化させるかどうかです。 0 で変化なし、1 だと鍵盤の高さに従ってカットオフ周波数が変化。

こうして見ると SoundSchool Analog はシンプルではあるものの、シンセの音作りで一般的な機能は一通り持っていることがわかります。 ここで説明しなかったパラメータに関しては製品付属マニュアル「Instrument Reference」の SoundSchool Analog のセクションを読んでみましょう。 日本語版が無いようですが、何とかなるでしょう。

音を鳴らしてみる

ではいくつかのプリセット音 (Reaktor では「スナップショット」と言います) を聴いてみましょう。 スナップショットはインストゥルメントヘッダー (あるいはメインツールバー) のドロップダウンリストから選ぶことができます。 パラメータをいじってどこがそのサウンドのキーポイントなのかも探ってみましょう。
Instrument Header

「1 – OSC Sinus」~「6 – OSC Pulswelle 2」

最初の方の「OSC」がついているスナップショットは各波形の生出力です。 スナップショット名がドイツ語なのでわかりづらいですが、例えば「1 – OSC Sinus」は鍵盤を押すと何の加工もしていないサイン波が出力されます。 Mix の Osc 1 は 0 に設定されているので、Oscillator2 のみが出力されています。 一瞬 Filter Envelope が設定されているように見えますが、Filter モジュールの Env の値が 0 なので実際は全くサウンドの変化はありません。

何はともあれ、まずはフィルターカットオフをいじってみましょう。 カットオフを変化させたときに音色の変化の大きい波形が倍音を多く含む波形ということになります。 どの波形が一番変化が大きいですか?

「32 – Basic PWM」
LFO で Oscillator 1 の Sym を モジュレートしているのですが、そうするとパルス幅の比率が変化するわけです。 単音で弾いて Scope で波形の変化を確認してみましょう (Freeze ボタンは消灯します)。 これはパルスウィズモジュレーション (PWM) という良く使われるテクニックです。
「37 – Basic Brass」
Oscillator 2 の Detune を 0 にして更に「FILTER ENV -> OSCILLATOR」の Pitch ランプを消してみましょう。 ずっと素朴な音になったと思います。 2つのオシレータのピッチが微妙にずれると厚い音になるということです。 音作りでとても重要なところです。
「39 – Basic FM」、「73 – Malletti」
FM の音作りですね。 FM パラメータを上げて Mix の Osc1 を 0 にすると Oscillator 1 は周波数変調だけのための存在 (=モジュレータ) になります。 この状態で Oscillator 1 の FM パラメータをいじるとモジュレータ出力で音がどう変化するかがよくわかります。
「40 – Basic Sync」
オシレータシンク機能を使った音です。 Oscillator 2 のピッチにエンベロープをつけていますが、Oscillator 1 の周波数にシンクされているのでピッチは変わらず音色の変化となります。 Sync をオフにするとどうなるか試してみましょう。
「41 – Basic Ringmod」
リングモジュレータ機能を使った音です。 かなり個性のある音ですが、リングモジュレータを使うとこんな音にしかならないという噂もあります。 Oscillator 1/2 共にサイン波にすると多少おとなしくなりますが、やはりリングモジュレータは飛び道具という感じでしょうか。
「54 – SawStrings」
どこかで聞いたことがある懐かしいシンセストリングス、という感じです。 ストリングス系のエンベロープはアタックを遅くしてリリースもつけるのが基本形となります。

SoundSchool Analog は構成がシンプルなので、こんな感じでいろいろいじってみることだと思います。 SoundSchool Analog のパラメータが一通りわかれば Reaktor で動く他のシンセの構造もきっと理解できるはずです。

Reaktor について

最後に Reaktor について説明します。 Reaktor を簡単に説明すると「複数のシンセサイザーやエフェクト、シーケンサー等を組み合わせてサウンドクリエイトするための環境ソフトウェア」ということになります。 Reaktor には SoundSchool Analog のようなインストゥルメントが 70種類以上パッケージされています。 インストゥルメントはシンセだけでなく、エフェクターやシーケンサーなどさまざまなタイプがあり、これを組み合わせてサウンドを生み出すことができます。

更にやろうと思えば「オシレータ」や「エンベロープ」といった単品レベル (「Module」や「Core Cell」と呼ばれます) を組み合わせて自分でインストゥルメントを作成することができます。 「タンス」と同じことがコンピュータ上で手軽にできるということです。 Native Instruments 社サイトの Reaktor ユーザライブラリには世界中のユーザが作成した何千ものインストゥルメントが公開されています。

KOMPLETE 7 も売れているようなので、既に手元に Reaktor があるけど使っていないという方もそれなりの数になるのではないでしょうか。 シンセの音作りに少しでも興味がある人はこれを機会に使い始めてみましょう。 好きなインストゥルメントを2、3見つけて使いこなすだけでも十分元が取れると思いますよ!

次回からしばらくの間、シンセの基本からは外れますが、Reaktor の使い方を解説していきたいと思います。

ソフトシンセ時代のシンセサイズ入門 (基本編)

Cubase のような DAW ソフトを買えばおまけ (?) としてプラグインシンセがついてきますし、KOMPLETE 7 のようなバンドルパッケージを買うと一挙に複数のシンセ (しかもそれぞれが結構複雑!) が手に入ってしまいます。 いい時代になったものです!

とは言ったものの、実際にはシンセの音作りが良くわからないのでプリセットを選ぶだけで終わっている人が多いのではないかと推測します。 シンセのプリセットはクセの多い音が多く、そのままだと作成中の楽曲に当て嵌めにくかったりするので、気づいたらシンセを全く触らなくなっていた、というような人も結構いるのではないでしょうか。 この記事はそのような方々のためにシンセの音作りの基本を説明します。

本格的な音作りはしなくても、シンセサイザーのサウンドメイキングの基本を知っておくことは役に立ちます。 シンセの音作りを知れば、欲しい音を具体的にイメージしやすくなるので音選びに役に立つでしょうし、プリセットを素材としてそれを調整し納得の行くよう自分の楽曲に合わせることができるようになります。 確かに現代のシンセはパラメータが膨大になっていますが、音作りの基礎を覚えておけばそれらの意味を理解することも容易くなるでしょう。

今回は基本編として、シンセサウンドを構成する基本要素を説明します。 サンプルを聴きながらそれらの要素の働き・効果を理解できるようにしています。 読みやすい分量にまとめているので説明を端折っている部分もありますが、まずは「そんなものか」というのを掴んでいただければあとは実践で何とかなると思います。

本エントリは、当初は jPlayer を使っていましたが、2012年11月からは SoundCloud を用いてサウンドを提供するようにしました。

シンセサイズの基本要素

オシレータの波形選択

シンセの基本原理はオシレータ (発振器) で出力した波形を加工して音に仕上げることです。 原波形がわからないほど過激な加工をすることもできなくはないですが、基本は選んだ波形の特徴を生かす音作りとなります。 ですので波形の選択はとても重要です。

オシレータの波形としては、シンセ黎明期から使われている鋸波等のシンプルな波形の他に実際に存在する音 (主に楽器のサウンド) をサンプリングした波形も用いられます。 中には手書きで波形を書いてしまえるようなシンセも存在します。 自分の気に入ったプリセット音はどの波形が使われているかを確認してみましょう。 最もよく使われる代表的なシンセ波形を以下に3つ挙げておきます。

鋸波 (SAW)

矩形波 (SQUARE, PULSE)

サイン波 (SINE)

加算処理 (ミックス)

多くのシンセサイザーは複数のオシレータを持っています。 波形をミックスすることでより厚い音や複雑な音をつくることができます。 オルガンのドローバーを引き出して音を変えるように、多数の倍音を加算して音作りするようなシンセも世の中には存在します。

例えばサンプリング系でもノイズと弦そのものの音を別のサンプルで用意してミックスみたいな話はありますね。 ここでは、一例として鋸波と1オクターブ上の矩形波をミックスした音を聴いてみましょう。

鋸波->矩形波->ミックス

実際の音作りではオシレータレベルだけでなく様々なレベルでミックスが行われます。 複数の異なるシンセパッチを重ねて一つのサウンドを作ることも普通に行われています。

減算処理 (フィルター)

フィルターで音を削ることを減算処理と呼びます。 通常シンセで使うフィルターは LPF (ローパスフィルター) で、主要パラメータはカットオフ (どの程度開くか) とレゾナンス (どれだけクセをつけるか) です。 これらのパラメータはよく演奏中にリアルタイムコントロールされます。

ここではフィルターのカットオフ (開き具合) を変えることでどのように音が変わるか聞いてみましょう。

フィルター[開]->[閉]->[開]

FM 合成 (周波数変調)

いわゆる「ヤマハ DX シリーズ」の音作りの方法です。 オシレータの出力波形を別のオシレータで周波数変調 (FM) すると元の波形にない倍音を作り出すことができます。

FM シンセの世界を楽しむために覚えておいた方が良い、いくつかの用語を説明しておきます。 元のオシレータを「キャリア」、変調する別のオシレータを「モジュレーター」といいます。 モジュレーターの出力を上げればにぎやかな音になるし、下げればシンプルな音になります。

また、FM シンセの世界ではオシレータの代わりに「オペレーター」という言葉も使います。 「6オペレーターシンセ」と言えば、キャリアやモジュレーターとして使えるオペレーターを 6つ搭載しているということです。 最近の FM シンセ (FM8 等) はどれをキャリアにしてどれをモジュレーターとするかを完全に自由に組み合わせることができますが、DX シリーズではいくつかのプリセットパターンから選んでいました。この組み合わせパターンを「アルゴリズム」と呼びます。

難しい理論の話をしてもきりがないので、ここではこれらの用語を覚えて実際の音を聴くところまでにしておきましょう。 モジュレーターの出力を変えた時の音の変化を確認してください。 (キャリア+モジュレーターの 2オペレータ、[キャリア周波数]:[モジュレーター周波数]= 1:1)

モジュレーター出力[小]->[大]->[小]

フィルターの変化と似ているかも知れませんが、フィルターは倍音を削る処理、FM 合成は倍音を増やす処理です。 つまりフィルターは原波形をおとなしくして FM 合成はにぎやかにするという逆方向の処理になっています。 なので、フィルターで音作りする場合は倍音を多く含む鋸波や矩形波がよく使われ、逆に倍音を作り出す FM 合成のモジュレーターとしてはシンプルなサイン波がよく使われます。

モジュレーション (エンベロープ、LFO等)

ここまでシンセ音色を決める要素を見て来ましたが、いくらこれらのパラメータを工夫したところで時間的変化を与えなければつまらない持続音にしか聞こえません。 音に時間的変化を与えることを一般的に「モジュレーション」と言います。 モジュレーションという言葉は場面によっていろいろな使われ方をしますが、ここでは広義の「音に時間的変化を与える」すなわち「シンセの構成パラメータを変化させる」という意味で使います。

パラメータを変化させるときのソースとして使える代表的なものは以下の3つです。

  • エンベロープ
  • LFO
  • コントローラー

また、変化させる対象としては主に以下のものがあります。

  • オシレーター出力レベル (Amplitude)
  • フィルター
  • ピッチ

それぞれ見ていきましょう。

鍵盤を押してからの変化をプログラム:エンベロープ

鍵盤を押してからの経過時間や出力レベルを設定してそれに従った変化を起こす仕組みをエンベロープと言います。 エンベロープの基本形は ADSR (Attack – Decay – Sustain – Release の 4パラメータで設定する) 方式のものですが、より多くのレベルとタイムを設定できたり、ループ設定が可能だったりするシンセも存在します。 オシレーター出力レベルにエンベロープを設定することで単純な持続音が減衰音に変わります。

ENV オシレーター出力レベル

ただし、同じオシレーターの仲間でも、FM シンセのモジュレーターの出力レベルを変化させた場合は、音色の変化になります。 これは先ほどの FM 合成サンプル音で聞いた通りです。

その他のモジュレーション対象についてエンベロープをかけた場合はどうなるかも確認してみましょう。 エンベロープをフィルターカットオフに対してかけるとフィルターの開き具合が変化し、音色と音量の変化になります。

ENV フィルター

エンベロープをピッチにかけると音程が変わります。

ENV ピッチ

このようにエンベロープと一口に言っても何をモジュレートするかで効果が変わります。 どこをモジュレートすればどのような効果が得られるのか理解することが大切です。

周期的な変化:LFO

LFO は低周波オシレータ (Low Frequency Oscillator)、つまり周期の長い波形をつくる発振器で、周期的な変化を作り出すことができます。 LFO の基本パラメータは波形、周期、深さです。 ここでは LFO の波形の違いがどのような効果をもたらすかを確認してみましょう。 いずれもピッチに対して LFO をかけ、LFO 波形を変えています。

LFO サイン波

LFO 鋸波

LFO 矩形波

LFO ランダム (S/H)

今回はピッチをモジュレートしていますが、エンベロープと同様、オシレータ出力レベルやフィルターをモジュレートすることもできます。

手動で変化:コントローラー

もう一つ、重要なモジュレーションソースとしてはコントローラーがあります。 リアルタイム演奏では、パラメータが割り当てられたモジュレーションホイールやスライダー/ノブ等を操作し、音を変化させることがよく行われます。 真っ先に思いつくのは、フィルターカットオフを割り当てて、フィルターを閉じたり開いたりすることです。 DAW 環境でも様々なパラメータをオートメーション機能で変化させることができます。

コントローラーにエフェクトパラメータを割り当てることも良くあります。 ディレイやリバーブのパラメータを変えて、ここぞというときに深い効果を狙ったりします。

ここまでモジュレーションソースと対象を個々に見て来ましたが、実際の音作りではこれらは組み合わせて用いられ複雑な時間変化を構成することになります。

シンセの分類

ここまでが理解できれば、次にすべきは自分のシンセにどのようなパラメータが存在して何ができるかを知ることです。 基本編の最後として世間一般のシンセ分類を簡単に説明します。

アナログ (タイプ) シンセ
主に減算で音を作り出すシンセサイザー。 使用できる波形は鋸波中心の単純な波形のみ。 波形のクセとフィルターの特性がそのままそのシンセのキャラクターとなる。 アナログはデジタルと比べると合成処理がいい加減で波形が歪んだりしているが、逆にそこが良さになる。 なので、ソフトシンセではわざわざ歪みを含んだ波形を用意していたりする。
FM 音源
主にFM合成で音を作り出すシンセサイザー。 金属っぽい響きをつくるのが得意。
PCM 音源/サンプラー
主に実際に存在する音を録音 (サンプリング) した波形を使用して音作りを行うシンセサイザー。 波形の量と質が重要となる。
倍音加算方式
多数のサイン波を加算処理して複雑な音を作るシンセサイザー。
物理モデリング
ここまでで説明したような処理ではなく、楽器が発音する物理法則に基づいた演算処理で音作りを行うシンセサイザー。 音作りにはモデルの理解が必要。 例えば、「弓を動かす速さ」とか「弓を弦にあてる強さ」のようなパラメータを調整して音作りする。

最近のシンセはハイブリッド型になっていて、単純にどのタイプと言い辛くなっていますが、ここまでの説明をきちんと理解してそれらの要素の組み合せと捉えれば何とかなると思います。 これで、あなたもシンセシストの仲間入りです! と言っても、本当に基本を理解しただけなので、いきなりシンセを自由に操るのは厳しいでしょう。 また、この記事では触れませんでしたが、各種エフェクトも音作りの大きな割合を占めます。 というわけで、次は KOMPLETE 7 にバンドルされているシンセを使った実践編をやります。


2012.11.28 追記 SoundCloud を用いてサウンドを提供するようにしました。

サンレコ「初めての『ミックス・ダウン』集中講座」を Cubase 5 でやってみる

サウンド&レコーディング・マガジンの 2010年12月号に「初めての『ミックス・ダウン』集中講座」という特集があります。 この号にはミックス用の素材がついてきて、DAW 環境が手元にあれば自分でミックス・ダウンしてトラックを完成させることができます。 誌面では Pro Tools を用いて説明されていますが、Cubase 5 でももちろんミックス・ダウンは同様にできます。 このブログエントリは初心者がサンレコ記事を見ながら Cubase 5 でミックス・ダウンをする時に知っておきたいことのメモ書きです。 ミックス・ダウンの基本はサンレコ記事内で紹介されているので、それを読みながら Cubase を使って自分で手を動かすためのメモです。

Cubase 5.5 を前提としていますが、Studio や Essential でも操作は同じ (でたまに使えない機能があるの) だと思います。 最新版の Cubase 6 では全く同じ操作が可能です。 用いている用語は Cubase の日本語版マニュアルに合わせているので、必要に応じてマニュアルを検索・参照してみてください。 見出し中括弧書きのページ番号はサンレコ誌のものです。

最初に

まずはオーディオインターフェイスの設定をきちんとしておきましょう。 実はここが初心者にとっての最初の難関だったりするのですが、ケースバイケースなのであまり書けることはありません。 とりあえず2つだけ。

  • インターフェイス付属の ASIO 対応ドライバが選択されているか確認しましょう。
  • ミックス用途ではリアルタイム性はあまり重要でないと思うので、バッファを多めにとってノイズ発生を避けましょう。

プロジェクトの下準備 (p.76)

Cubase での操作は以下の通りです。

  1. 「新規プロジェクト」で「その他」-「Empty」を選択します。
  2. ファイルは現在のプロジェクカーソルの位置 (現在位置=縦棒の位置) に読み込まれるので、これが「1.1.1.0」の位置になっているのを確認しましょう。
  3. 「ファイル」-「読み込み」-「オーディオファイル」でサンレコ付属の DVD から素材ファイルを読み込みます。 複数ファイルを選択して読み込むことができるので一気に全部読んでしまいましょう。 また、このとき「作業ディレクトリにファイルをコピー」をチェックしておきます。これにより DVD からローカルディスクに素材がコピーされます。
    読み込み
  4. 「別々のトラックに挿入」するようにしましょう。 下図の表示には「異なるトラック」を選択します。
    読み込み

読み込んだ後はドラッグアンドドロップでトラックの位置を変えることができます。

曲として用いる区間をマーク

素材には最初と最後に余分な間が入っているので、マーカートラックを使って曲として用いる区間をマークしておくと便利です。 左/右ロケーターを曲の最初と最後に配置して「サイクルマーカーの追加」ボタンを押します (図中赤丸)。
マーカー

例えばミックスのファイル書き出し時には、このマーカーをダブルクリックすると左/右ロケーターが曲の最初と最後に移動するので簡単に準備ができます。 マーカーは使いこなすと便利な機能だと思います。 ちなみにマーカートラックがなくてもマーカーを使用することはできますが、一度作ったマーカーを削除することができなかったりします (Cubase5.5 の場合)。

時間ベースでの編集

素材を読み込んだ後シーケンスを追加する場合等は小節位置を合わせておかないと作業がしにくくなりますが、今回はただのミックスなのでテンポやビートは気にせず時間ベースで考えて作業しましょう。 以下の設定は必須ではないですが、細かい作業に踏み込む可能性があるならばやっておいた方が良いでしょう。

  • 読み込んだ各トラックをリニアタイムベースにします (次項図中赤丸)。
  • ルーラーの表示を「秒」表示にします (図中赤丸)。
    タイムベース
  • スナップはオフにした方が作業しやすいでしょう。

音量の確認 (p.77)

誌面で紹介されているベースの音量の設定については Cubase でも全く同様にメーターを確認することができます。 出力バスレベルである下図の丸印部分を -10dB に設定することになるのですが、この部分をクリックするとメーターをリセットすることができます。 (追記: 本誌を読むとわかるのですが、「VU メーターでベースが -6dB」=「DAW のピークメーターで -10dB」となるそうです。 タモリ倶楽部を見た人は VUメーターとピークメーターの違いに気をつけましょう。 もちろんこれが絶対の値というわけではないです。)
メーター

Send の扱い

FX チャンネルトラックを追加すると「チャンネル設定ウィンドウ」の Send からルーティングできるようになります。 FX チャンネルトラックもオーディオトラックと同様に「チャンネル設定ウィンドウ」を表示して設定できるので、複数のエフェクトを組み合わせたり更にどこかに Send したりということが可能です。

チャンネル設定ウィンドウ

EQ やエフェクト (Insert、Send) の設定は「ミキサー」画面か「チャンネル設定ウィンドウ」で実施することになりますが、初心者のうちは「チャンネル設定ウィンドウ」を用いるのが良いと思います。 まずはこの画面に慣れることです。
チャンネル設定ウィンドウ

特に EQ は初心者にはいろいろ難しいと思いますが、図の矢印&赤丸部分をクリックすることでプリセットを呼び出すことができるので、まずは大量のファクトリープリセットの中からそれっぽい名前のものを選ぶことから始めてみましょう。

なおインサートエフェクトの 7番目、8番目はポストフェーダーになっています。 ドラッグしてエフェクトの位置を変えることができるので、エフェクトの順序やプリ/ポストフェーダーでの違い等を手軽に試すことができます。

エフェクト

エフェクトパラメータについてはきりが無いのでここでは少しだけ。

まず Compressor について一言。 「GR」=ゲイン・リダクションのメーターがかかり具合 (減衰量) を表しているのでこれを見ながら値を決めましょう (下図赤丸)。
Compressor

また、各エフェクトには EQ 同様多くのプリセットが用意されているのでこれを活用しましょう。

オートメーション (p.82、p.86)

Cubase でもボリュームをはじめとする各種パラメータのオートメーションが可能です。 以下ボリューム操作のためのオートメーション設定例です。

  1. 下図のように操作対象トラック上で右クリック後「オートメーションを表示」を選んでオートメーショントラックを表示します。
    オートメーション
  2. 鉛筆ツール (右クリックで表示・選択) でオートメーショントラックのデータを書き込みます。 余分に書いてしまったら、矢印ツールで選択後 Delete キーで削除すれば良いです。 ドラッグして位置を直すこともできます。 操作の仕方は「オペレーションマニュアル」の「オートメーション」の章に詳しく書かれています。
    オートメーション

図中の「ボリューム」と表示されている部分をクリックするとその他のパラメータを選択することもできます。 センド量やパンの他、インサートエフェクトの各種パラメータもいじることができます。

ちなみにオートメーションをリアルタイム操作で記録するには、「W」ボタンを点灯させてトラックを再生しながらVSTi 画面や MIDI コントローラを操作します。録音時だけでなく再生時も記録することができます。 なお、「R」を消灯するとオートメーションの再生がされなくなってしまうので注意しましょう。

グループトラック

例えば複数のボーカルパートに同じ設定のエフェクトをかけたいとき、それぞれのチャンネルを設定するよりもグループチャンネルトラックを作成してまとめて扱った方が簡単です。 グループチャンネルトラックを作成すると下図のようにチャンネルの出力先としてそのグループチャンネルが表示されるようになります。 それぞれのボーカルパートで音量とパン等個別の設定を行い、共通のエフェクトはグループチャンネルの方でかける、というような使い方ができます。
グループチャンネル

なお、複数のフェーダーを1つの操作で動かすだけならば、グループトラックを使わなくても「チャンネルをリンク」することで対応できます。 複数のチャンネルを選んでコンテキスト (右クリック) メニューから「チャンネルのリンク」を選ぶだけです。 詳しくはオペレーションマニュアルの「チャンネルをリンクする」の項を参照ください。

マスタリング用エフェクト (p.87)

ミキサー画面から出力用のバス (通常は「Stereo Out」) の「チャンネル設定ウインドウ」を表示し、インサートエフェクトを設定します。 「新規プロジェクト」で「マスタリング」-「Stereo Mastering」を選んで作成されたプロジェクトは、 StereoEnhancer と VSTDynamics の2つがこの形でセットアップされます。

ミックスダウンの実行

「ファイル」-「書き出し」-「ミックスダウン」で行います。 以下の画面が表示されますが、詳細はマニュアル参照ということで。 書き出し前に左/右ロケーターの位置を書き出し区間の最初と最後に設定するのを忘れずに!
ミックスダウン

オートメーションを使っている場合は「実時間で書き出す」ようにした方が良いようです。 使用 VSTi によるかも知れませんが、実時間で行わないとトラック再生時とミックス時で出力結果が変わることがありました。

最後に

誌面連動のミックスダウン・コンテストが 12/31 締め切りで実施中です。 今からでも間に合うので Cubase をお持ちの方は是非サンレコ誌を買って手を動かしてみてください。


2011.5.21 追記
若干追記しました。 最新バージョンは Cubase 6 となりましたが、こちらでも同じように操作できます。

結局 Prominy PCP-80 を購入

以前市場に出回っているヤマハ CP-70/CP-80 のソフトウェア音源についての記事を書きました。 この時は書いただけだったのですが、やはり CP の音が欲しくて Prominy PCP-80 を購入してしまいました。 ロックオンのオンラインショップで新規登録特典 1,000円分ポイントを利用し、実費 15,400円で購入しました。

パッケージはサンプル音と各種サンプラー用のパッチ (プリセット、インストゥルメント) ファイルが含まれるだけで、別途サンプルプレイヤーが必要です。 ただし、Kontakt Player や HALionOne では再生できないので注意が必要です。 DVD が 3枚入っていますが、1枚は Kontakt/HALion/EXS 用、他の 2枚は今は亡き GigaStudio 用です。 GigaStudio 用も 96kHz/24bit および 44kHz/24bit のパッチが含まれています。 私の場合は Kontakt 4 にロードして使用します。

インストールについて丁寧に説明されたマニュアルは付属していないのですが、Windows の場合は以下の .EXE ファイルを実行すれば、Kontakt/HALion/EXS 用がいっぺんにインストールされます。

multi_format_44k.part1.exe 44kHz サンプル
multi_format_96k.part1.exe 96kHz サンプル

パッケージ付属のパッチファイルは古いバージョンの Kontakt 用につくられたためか、Kontakt 4 に読み込むとダンパーペダル使用時の反響音が何故かリバース再生させるようになったりしていますが、ユーザー登録をすれば新しいパッチファイルを入手することができます。 以下、特に断りがなければ Kontakt 用の最新 V.206 のパッチに関しての記述です。

個々のサンプル音に関しては文句ないのですが、パッチの設定に関して言うとダンパーペダル使用時に重なるサンプルやキーオフ時に再生されるサンプルの音量が若干大きいような気がします。 パッチエディットをして調整した方が良いかとも思うのですが、まだ Kontakt を使いこなせていなくてやっていません。 まあ、リバーブをかけてしまえば気にはならない程度の話ですが。

ところで実際の演奏だとダンパーペダルは打鍵の後に踏むことが多いと思いますが、そうするとペダル使用時サンプルは再生されません。 打鍵時に踏んでいないと再生されないのです。 実機もそういうものなのかも知れないし、あるいはひょっとしたらうまくエディットすれば後から踏んだ時も再生できるようになるのかも知れません。 これもリバーブをかけて気にしない、ということで。

そう言えばパッチはドライに仕上がっているのでリバーブやコーラスを好みに応じて自分でかけなければなりません。 とりあえずは Kontakt 4 のエフェクト機能を使うのがお手軽ですね。 世の中にはドライな音しか出てこないと「あれっ?」と思ってしまう人もいるようですが、自分でエフェクトをかければ無問題です。 「使えない」と判断するのはパッチエディットの仕方を覚えてからにしましょう。

サンプルは本当に文句なしです。 私の用途では 44kHz 8レイヤー版 (PCP-80_44k_v206_lite.nki) で十分です。 それと PCP-80 が実物の音に忠実だとすると、HALionOne 版の「CP 2006」の音もまあまあかと思えるようになりました。 自分の記憶の中のイメージと若干違う部分があったのは私の思い違いのようです。 自分で演奏するときは断然 PCP-80 の方が良いですが。

PCP-80 が気になった人は Prominy の Twitter アカウントをフォローしておくと安売り情報が流されるかも知れません。

VSL KONTAKT Orchestra のキースイッチと Cubase VST エクスプレッションマップ

Kontakt 4 「Orchestral」コレクションのアーティキュレーション

Kontakt 4 ライブラリにはあの有名な「Vienna Symphonic Library (VSL)」の Kontakt 向けバージョンである VSL KONTAKT Orchestra が含まれています。 「Orchestral」コレクションに含まれているストリングス等がそれです。 と言いつつも私はその VSL がどれぐらい有名なのかわかっていないのですが、オーケストラ楽器を弾くことができない私としてはストリングスセクションのプリセットを使いこなせるようにしておきたいところです。

ストリングスの使いこなしでやはり重要なのは様々なアーティキュレーションの使いこなしでしょう。 今時のサンプリング音源ではアーティキュレーションごとに録音したサンプルを使い分けて演奏ができるようになっています。 昔は打ち込みテクニックで表現し分けていた様な気がしますが、それに比べたらずっと自然な演奏になるでしょうし、打ち込みもしやすいです。

この Orchestral コレクションでアーティキュレーションを使い分けた演奏を行うにはキースイッチ、すなわち MIDI のノート信号でアーティキュレーション切り替えを行います。 例えば「Violin Solo」というプリセットでは C0 ~ F0 という低い鍵盤が標準キースイッチに用いられます。

加えて「Dynamic KS」ボタンが点灯している状態 (デフォルト) では、標準キースイッチから更に1オクターブ下の C-1 ~ F-1 が「Dynamic KS」という、既に発音中のノートのアーティキュレーションを切り替えるためのスイッチになっています。 画面上のキーボードで確認して、レッドが標準キースイッチ、シアンが Dynamic KS になります (Dirigent の参考記事)。 かなり下の方なのでこのままだと鍵盤数の少ない MIDI キーボードでは入力できないかも知れません。

標準キースイッチと Dynamic KS の動作を比較すると以下のようになります。 Dynamic KS は後からノートオンした音符に対して効果がないので注意が必要です。

標準 Dynamic KS
発音中ノートに対しての効果 なし あり
KSオン後に発音したノートに対しての効果 あり なし

後述で説明する通り、VST エクスプレッション機能と組み合わせる場合は標準キースイッチの方を使用します。

Cubase 5 の VST エクスプレッション

Cubase 5 には「VST エクスプレッション」という機能があります。 これは複数のアーティキュレーションを持つサウンドを扱いやすくするための機能です。

Kontakt の Orchestral のケースを考えた場合、アーティキュレーションをつけた演奏を打ち込む場合は、発音のためのノートの他にキースイッチ用のノートイベントを一緒に入力することになります。 VST エクスプレッション機能を使うと、これがアーティキュレーションを付けたノートイベントを入力するという形に変わります。 例えばスコアエディタを使って音符に演奏記号を付けると、それに応じたサウンドに切り替わって再生されます。

つまり VST エクスプレッションを使わなくても Orchestral サウンドのアーティキュレーション切り替えはできますが、使った方が扱いやすくなるということです。 また、Orchestral ではキースイッチ用の鍵盤が低い位置にありますが、VST エクスプレッションマップを作っておけばキースイッチの音域移動も手軽になります。

VST エクスプレッションマップの作成

というわけでエクスプレッションマップを作成手順を説明します。 Orchestral コレクションの中でもサウンドによって使用可能なアーティキュレーションの種類は異なるので、それに応じたマップを作らねばなりません。 そのうち Violin、Viola、Cello は同じアーティキュレーション設定になっているので、まずはそれ用のエクスプレッションマップを作ってみます。

ちなみに本家 VSL 用のエクスプレッションマップはスタインバーグのサイトよりダウンロード可能なのですが、Kontakt 版は本家版に比べてアーティキュレーションの種類がぐっと少なくなっていてキースイッチ割り当ても異なっているので、そのまま使うことができません。

設定手順の概要は以下の通りです。

  1. MIDI トラック or インストゥルメントトラックのインスペクターより「VST エクスプレッションの設定」を選びます (下図)。
  2. 表示された「VST エクスプレッションの設定」ウィンドウの左上「エクスプレッションマップ」の下の「+」で新たなマップを作成します。
  3. 「出力マッピング」のところの「#1 キースイッチ」に切り替え用キースイッチを入力します。 また「サウンドスロット」のところで名前や対応するアーティキュレーションを設定します。
  4. 「サウンドスロット」の「+」でサウンドスロットを追加し、設定を繰り返します。

いくつか設定のポイントを説明します。

  • 複数のアーティキュレーションを組み合わせて使うような場合はグループを複数使用することになるのですが、Orchestral では単純な切換えなので、全てのアーティキュレーションを同一のグループに設定しておきます。
  • 「出力マッピング」で「#1 キースイッチ」に Kontakt のキースイッチ用ノートを設定していくのですが、このとき標準キースイッチ (C0 ~ F0) を割り当てます。 各エディターでアーティキュレーションを付加すると、再生時はアーティキュレーション切換え用ノートが送られてから発音用ノートが送られます。 したがって、Dynamic KS では効果がつきません。

というわけで設定が終了するとプロジェクトウィンドウのインスペクターが以下のようになります。 C1 ~ F1 のキーを押しながら普通の鍵盤で音を出すと効果を確認することができます。

実際のエクスプレッションマップ作成に際しては、全て一から作るのではなく既に存在するマップに修正を加えるやり方で良いと思います。 さきの VSL 用をベースにすることもできますし、HALionOne の「Large Strings VX」等「VX」系のトラックプリセットを参考にしても良いでしょう。 各エディターでのアーティキュレーション入力についてはオペレーションマニュアルの「VST エクスプレッション」の章に詳しく説明されているので参照してみてください。

Cubase を使って好きな曲のコピー

この頃、DAW の練習として自分の好きな古い歌のコピーをしています。 スコアを買ってきたとしても結構いい加減なものが多いので、コード進行を参考にする程度でひたすら耳コピをすることになるですが、今日はその手順を簡単に紹介します。

コピー元 CD からのインポート

新規プロジェクトを作成した後、「ファイル」-「読み込み」-「オーディオ CD」を選んで、コピー元の曲を読み込んだオーディオトラックを作成します。 CD 以外の音源を使う場合は「読み込み」-「オーディオファイル」ですね。

テンポトラックをつくる

編集をやりやすくするために、小節位置を先に読み込んだ CD 音源に合わせておきます。 具体的には、タップテンポ機能を使用してテンポトラックを作成します。

それとトラック毎にミュージカルタイムベース/ リニアタイムベースの設定は使い分けます。 これはもろもろの処理に音楽的な小節を基準にするか絶対的な時間を基準にするかの切換えです。 打ち込み用トラックはミュージカルタイムベースになるでしょうが、特にテンポの変化する曲では手弾きのオーディオトラックをリニアタイムベースとした方が扱いやすいかも知れません。 CD 音源再生用オーディオトラックやタップ用の MIDI トラックはリニアタイムベースにしておかねばなりません。

再生用ツールの準備

耳コピで重要なのは CD 音源の再生方法だと思います。 テンポを落としたり、フィルターをかけたりできる再生ツールを使うのが効率的ですが、最近私はこの用途に Guitar RIG 4 Pro を使っています。

Cubase のエフェクトトラックとして Guitar RIG 4 を立ち上げ、先ほどのインポート時に作られた .WAV ファイルを TAPEDECK に読み込みます。エフェクトトラックにアサインすることで、Cubase の出力ルーティングの中に取り込むことができ、作成しているトラックと同じ環境で TAPEDECK の再生をモニタリングすることができます。

TAPEDECK はピッチを変えずにスピードを遅くして再生することができます。 トラックの再生と同期するわけではなく、独立した再生ツールとして使ってその出力が Cubase に取り込まれるという使い方になります。

更に特定の帯域をとりだすために Pro-Filter コンポーネントを Guitar RIG のラックに入れ、場合によっては左右の片チャンネルのみ再生するために Split コンポーネントを使います。 これらは無償版の Guitar RIG 4 Player でも使用可能なコンポーネントばかりなので、耳コピ用の再生ツールがない方は一度試してみると良いと思います。

ひたすらコピー

後はひたすらコピーしていくだけです。 自分の演奏や打ち込みデータを CD 音源トラックと同時に再生して、気持ち悪いところがないかを確認していきます。 パンを振って左右で違いがないか確認するのも良いでしょう。

コピー譜をつくる

私にとってまだこれからの課題なのですが、スコア機能を使って譜面をきちんとつくっておきたいと思っています。 スコア作成には再生用トラックとは別に譜面用の MIDI トラックを作って管理して行くことになりそうです。

まとめ

多分耳コピは慣れだと思うのでまずはやってみることです。 「Cubase 買ったけど何したら良いかわかんね」というような人は好きな曲のコピーから始めてみてはいかがでしょう? スコアを買ってきたとしてもそれを鵜呑みにせず、自分の耳でエフェクト等含めて完コピを目指すのがポイントです。

きちんとコピーできると気持ちよいし、各パートの構成やエフェクトなど色々勉強になります。

そうは言っても Battery 3 はスゴイよね!

前の記事で「Komplete 7 を買っちゃったけど Groove Agent ONE を使おう」みたいな内容を書いたのですが、けして Battery 3 が悪いというわけではなくて、逆に多機能だし、プリセットも重装備なのでリズムトラックを熱心に作ったことのない私としては困っちゃったなあ、というような感じなのです。 機能面でいうと Groove Agent ONE など比較対象にならない位で、特にアコースティック系のシミュレーションでこだわっていくなら Battery 3 を使いこなしていくしかないと思っています。

というわけで今回は Native Instruments 社製のドラム音源ソフトウェアである Battery 3 を紹介してみます。 私自身はこれから使いこなす段階なので、どちらかと言うと興味があるけど買ってない/使っていない人向けです。

まずはここから

購入前の検討やリズムトラック作成の参考資料ということでは、まず Native Instruments のデモを聴いてみることです。

機能面では国内代理店 Dirigent の製品紹介記事はかなり参考になると思います。

やっぱりサンプルだよね

私がまず驚いたのは、何と言っても各キットの圧倒的なレイヤー数です。 下の図は「Heavy Rock Kit」というプリセットのスネア用セルのレイヤーセッティング表示です。 (「1セル」はいわゆる1音色です)

縦軸がベロシティ、横軸がレイヤーを表しているのですが、特にスネアはこのように 20 程度のレイヤーで構成されている音色がいくつもあります。 つまり1音色のために約 20 のサンプルが録音されていてベロシティで音が切り替わるということです。 レイヤー間の音の切り替えを自然にするためのクロスフェードの機能もあります。

更にマルチマイクのサンプルを使ったキットが多数あります。 これらのキットでは複数のセルで一つの音 (例えばスネア1音色) を構成し、それぞれのセルに異なるセッティングのマイクで録音したサンプルがアサインされているのです。 セルの音量を個別に調整することで、同じスネアでも「アンビエンス多め」とか「徹底的にドライ」という様な音作りをすることができるのです。 以下はマルチマイクキットの例で、1列で1音色分です。 「L」、「R」というのは左右の手 (足) によるヒットを別々に録音しているということです。

マルチマイク使用キットでは例えばスネア1音色用にマイク5本分となる5セルがあり、そのセル毎に 20超のレイヤーがあったりするので、それっていうのはスネア1音色のために 100超のサンプルが存在しているということになるのです。 それが両手分で×2だったりもするし。 圧倒的ですよね。

なお、レイヤーが増えて読み込みに時間がかかると気軽にプリセットを変えて選ぶ、というのが難しくなるのですが、そのような目的のためにプレビュー用のキットが用意されています。 名前の終わりが「Preview」となっているキットがそれで、プリセットメニュー ([Library Fast Find メニュー」というらしい) の「07 – Battery 3 Kits」、「08 – Battery 2 Kits」の下にあります。 このプレビュー用キットは1セル1サンプルとなっているので気軽にロードできます。

マイキットづくり

「マイキットをつくる」という点では Groove Agent ONE よりもずっと音作りに凝ることができます。 (というより比較してはいけないのかも知れません)

セルごとにボリュームエンベロープやピッチエンベロープ (Dirigent 記事「Vol. 1」参照) を持ち、これとは別のエンベロープや LFO 等を使って色々な効果を得ることができます (同「Vol. 3」参照)。 フィルターもあります。

アコースティックのシミュレーションという点では、フラムやロール等を表現するためのアーティキュレーション機能、ピッチやベロシティに揺れをつけるヒューマナイズ (Humanize) 機能もあります。

また、「セルライブラリ」という機能により1セル分のセーブ・ロードができるので、マイキットづくりはやりやすく気に入った音をあちこちで使うのに便利です。

なお、EQ、Compressor はセル毎にかけることができますが、Delay、Reverb は全体で一つのセンドエフェクトになっているので、空間系エフェクトに凝る場合はマルチアウト機能を活用することになります。 ステレオ× 16 の出力が可能です。 Cubase 上でパラアウト設定する場合は VST インストゥルメントのラックを使いましょう。

気になる点

まだ使いこんでいないのですが、1点だけ。 音づくりに凝れる分だけ undo や compare 機能がない点が気になります。 こまめにセーブした方が良さそうです。

まとめ

機能的にここまで必要な人がどの程度いるのかは正直わかりませんが、機能面を Groove Agent ONE と比べちゃいけないな、というのはわかっていただけたと思います。 あとはデモを聴いてサンプルが気に入るかどうかだと思います。 私の価値観だと単体購入は微妙ですが (今はつい勢いで買ってしまいそうな値段になってますが)、KOMPLETE 7 の中の一つとしてはしっかり使いこなして元を取る方の区分に入れています。