NISA とか確定拠出年金とか

昨年転職したときの話です。 これまで働いていた企業では企業型確定拠出年金の制度がありました。 しかし、新しい職場では年金制度がないので、個人型の確定拠出年金に移換しなければなりません。 というわけで確定拠出年金制度 (DC) について再確認することになりました。

加えて今年から NISA が始まりました。 多少は株の売買もすることはありますが、私自身の本職はあくまで IT 企業に勤める会社員です。 なので、あんまり手間をかけたくはないのですが、かと言って NISA という制度についての基本的な知識がないと損するような気がしてしまいます。

このように NISA や DC の運用を確認したい、そんなときに頼れる参考書を紹介しておきます。 山崎元著「全面改訂 超簡単 お金の運用術」です。

本書では「お金の運用が仕事でもないし趣味でもない」人に向けて簡単でほぼベストな運用方法を紹介することを目的としています。 ここには詳細を書きませんが、第一章の冒頭で早速結論が提示され、投資信託を中心に複数の金融商品を組み合わせた運用が紹介されます。 確かにこれを実践するのは難しくはありません。

そして、そのあとに何故それがベストなのかの説明が続きます。 興味の程度によっては理由付けを軽く流しても良いと思いますが、どの金融商品が投資に向いていて、どれが投資不適格なのかがきちんと説明されています。

更に冒頭に紹介したように NISA や DC、そして生保や資産としての住宅の位置づけなども説明され、本書を通して読むことで一通りのマネーリテラシーを身に着けることができます。 大半の人にはこれで十分な知識であり、かつ大半の人は現状これらを理解できていないというような内容になっているはずです。

興味がある方は、まず NISA と DC についてこの記事を読んでみましょう。 そして、筆者の考え方に納得したら、Kindle 版であればワンコインで買える程度の価格なので是非本書を買って読んで欲しいです。 特に金融機関に普段縁がないものの漠然と金融商品に手を出そうかと考えている方は、必ず金融機関に行く前に本書を読みましょう。 若い方にもおすすめです。

最近見直した人

勝間和代

思い立って勝間和代「決算書の暗号を解け! ダメ株を見破る投資のルール」を読んでみました。 初めて買った勝間本です。 最近、勝間氏はまた微妙な本を出していてそっちはどうでも良いのですが、初期の本は長年の蓄積に基づいているそうで、世間一般からの評価も高いように見えるので買ってみたのです。 中古で安く売っていて買いやすかったというのもあります。

で、「決算書の暗号を解け!」ですが、確かに良いです。 「期末になるとなんでこんなわけわかんないことをやらなければならないんだー」とか「減価償却 (あるいはのれん代) ってよくわかんね」みたいな若者には是非読んで欲しいです。 わかりやすいし。 出版点数を減らしてこれぐらいの内容の本をコンスタントに出していれば良いのにと思うのですが、それはやはり難しいのでしょう。 それでも勝間氏が出したのは怪しげな表紙の本 () だけではないと知ったのは新鮮な発見でした。

ただし、実際株に投資する場合は、決算書の内容だけで株価は決まらないということも肝に銘じておく必要がありますが。 私としてはどちらかというと、株投資よりもビジネスマンとして会社がどういう動機付けをされているかを知るために読むことをお勧めしておきます。

香山リカ

香山リカというと勝間和代と対談してた人というイメージで、最近だと橋本批判するのはよいけどやりとりの内容が微妙な気がしていました。 要は勝間氏と同じで有名になりたいだけの人なのではないかと思っていたのです。

でも、最近香山氏が書いた文章を読んでとてもまともなことを言っていると感動しました。 そこで言っている内容は「ビジネス書を読んでそこに書いてあること実践してたとしても成功するとは限らない」ということです。 言われてみると当たり前なのですが、熱心な読者は気づかなかったりします。 比較的人生にポジティブな人ほどビジネス書やら啓蒙書にハマってわけがわからなくなってしまいがちなのですが、そんなときは一歩引いて香山氏の文章を読んでみると良いと思います。 例えばスティーブ・ジョブスの伝記を読んで形だけマネしてみても、成功するより周囲に嫌われて誰もいなくなってしまう可能性の方が高いような気がします。

受け狙いでなくきちんとかかれた本/文章に反応するようにしておかないと、世の中が実のないものばかりで溢れてしまいそうなのでこんなことを書いてみました。

「弱い日本の強い円」

円高傾向が続いている為替相場ですが、経済ニュースに書かれている「市場関係者」のコメントから動きを理解するのは難しいです。 そんな中、某所で薦められていた「弱い日本の強い円」を読んでみたところ、大変読みやすくとても参考になりました。 著者は人気 FXストラテジスト佐々木 融氏です。

以下、本書で指摘されているポイントについての私なりの箇条書きです。 気になることがあったら是非本書を手に取ってみてください。 もし、あなたが FX取引に手を出そうとしているならば、その前に読んでみましょう。

  • 為替レートは国力で決まるわけではない。経済成長率の低下や人口減少で円安にはならない。
  • ドル円相場をコントロールできるようなプレイヤーはいない。
  • 為替の動きを理解するには米ドル/円だけ見ていても不十分で、クロス円の動きをとらえなければならない。
  • 為替相場にとって、中期的には貿易収支が重要。長期的には主に物価上昇率の差で相場の動きが決まる。
  • 製造業の海外移転が進めば貿易収支は赤字になり得るだろうが、所得収支は簡単に減らないと思われるので経常収支が赤字になることは簡単には起こらない。
  • 貿易収支が黒字であれば円買い要因になる。この動きはフローなので為替レートに「織り込み済み」となることはない。
  • それぞれの国によって経済構造が異なるので、同じような震災があってもその後の為替の動きは異なる。
  • 景気が悪くなると円高傾向となり、良くなれば円安傾向となる。
  • 日本の祝日には円高が起こりやすい。(この年末・年始もその傾向が出ていたように思えます)
  • 「基軸通貨」とは決済等で用いられることが最も多い通貨のこと。 ドル安だろうが基軸通貨としての米ドルの地位は揺るいでいない。人民元が基軸通貨になるかどうかは議論する前の段階。
  • 円売り介入の効果は少なく、積み上がって行く外貨準備高の問題の方が大きい。
  • 日本全体の企業収益にとっては、いまや米ドル/円よりも円/ウォン相場の方が重要。

以前「沈まぬ太陽」を読んで感じたこと

前エントリに続き、好きになれなかった本の話を書いてしまいます。 最近映画が公開されてあちらこちらで話題になっているようなのでタイミングも良いし。 そうです、「沈まぬ太陽」」のことです。

読んだのは数年前のことで、薦めてくれた人がいたので3巻「御巣鷹山篇」までは借りて読みましたが、そこで終わりました。 山崎豊子はそれが最初で最後になっています。

何故好きになれなかったのかと言うと、

  • 善と悪がはっきりし過ぎていて、気持ち悪い
  • 明らかに実在の企業、人物、事故について書いているとわかるのに、ノンフィクションという形を取らない作家の姿勢が疑問

ということです。

創作部分が少なからずあるという点をあちらこちらで指摘されていますが、さもありなんと感じます。 この作品を気に入った人にケンカを売るつもりは全くないし、JAL の味方というわけでもないのですが、フィクションであることは忘れないで欲しいと思うのです。

叙述トリックの好き・嫌い「向日葵の咲かない夏」

(多少のネタバレありです)

ミステリーに叙述トリックという分野があります。 この言葉を知らない人だと Wikipedia の説明を読んでも今一つピンと来ないかも知れませんが、要は作者が読者をだますわけです。 とするとどうしても最後に「大どんでん返し」が起こるわけで、その結末を知った読者が改めて最初から読み直した時に辻褄があっていると感じられるかどうかによってその作品の評価が決まるわけです。 素直に「だまされた」と感じられればその作品の評価は上がるけれど、「こじつけだよな」と思ってしまえばそれで終わりとなるわけです。

他に「バレバレじゃん...」というパターンもありますが...

何でこんなことを書いているかというと、今回読んだ「向日葵の咲かない夏」については好きになれなかったのです。 「ハサミ男」「慟哭」は良かったと思っているのですが、その差は何だろう、と。

思いついたのは「向日葵の咲かない夏」というのは最初からフワフワした感じなのが、入って行けなかった理由なのかなと。 それを最後にひっくり返されても「ああ、やっぱりそっち行っちゃったか...」という思ってしまうだけだったのです。

どこがフワフワだったかというと、

  • しゃべる蜘蛛
  • 聡明な3歳児

というあたりで、どんな世界の話なのかなあ、と諦めてしまったのです。 最後に合理的な説明がつくわけですが、だったら、

  • 警察への電話の仕方はじめ岩村先生関連のもろもろについてそれなりの事情や結末をつけて欲しい
  • 猫の写真をニュースで流すことはないように思える (他にこの点を指摘している人を見たことがないので、私の読み方が間違っているかも知れませんが)

と思ってしまいました。

ちなみに私の場合、本屋で平積みにされ何人かの人が手に取っているのをみたのと「このミステリーがすごい!2009年度版作家別投票第1位」というオビで「向日葵の咲かない夏」の購入を決意しました。 「作家別」というのが怪しい感じでしたが...

「ハサミ男」と「慟哭」はお勧めします。 ですが、やっぱり叙述トリックは好き・嫌いが分かれるようで Amazon のレビューを見ると賛否ありますね。 こんなエントリを読ませておいて何なんですが、「叙述トリックだから」と構えないで素直に読むと楽しめると思います。

週刊東洋経済「鉄道進化論」

週刊東洋経済 7/4 特大号 (いつも「特大号」な気がしますが) で「鉄道進化論」と題して鉄道の特集を組んでいるのを書店で見つけたので、買ってみました。 表紙の各車両 (除 E5系) は模型の写真ですね。

全体の約半分ぐらいのページを使ってかなり力の入った特集になっています。 ビジネス誌なのでもちろんビジネス的な観点での内容となっています。 読んでみると、ローカル線が次々と廃止されていく状況ってどうなっちゃうの?、というような疑問は消えてなくならないのですが、新幹線関連の話は結構元気が出ます。

列車の速度が 350km/h になれば、国土の広いアメリカでも短距離航空路線と勝負ができるのだそうです。 しかも、原油高で苦しい航空業界からすると収益性の低い短距離路線の廃止が容易になるので、航空業界からも支持されるのだとか。 実際カリフォルニアとブラジルで高速鉄道建設計画があるので、そこで日本の技術をうまく採用してもらいましょうと。

輸出地図を見ると思ったよりも多くの都市で既に日本製車両が走っていますが、日本がすごいのは車両の技術だけでなくて、過密なダイヤを正確に運用していくオペレーション含めてのことなので、そこの価値を世界に売り込んでいくことが課題となるようです。

鉄道模型の話も見開きで2ページ載っていて、トミーテックの工場で製品ができるまでの工程が紹介されています。 ちなみに 2008年実績で鉄道模型市場は約5%成長持続、5年で 1.5倍の売り上げ増だそうです。 やはりブームなんですね。

既に最新号ではなくなっていますが、大きい書店ならばまだ置いてあるのではないでしょうか? また、東洋経済の Web サイトでも購入可能ですね。

40―翼ふたたび

最近小説は読まなくなってしまっていて、久しぶりに手に取ったのがこの本「40(フォーティ)―翼ふたたび」です。 まさに今の自分の年齢の本だし、石田衣良ならば大きくハズれることも無いだろうと買ってきたのでした。

この本はいくつのエピソードがつながって一つの大きな物語を作り上げる構成になっています。 最初のうちは文調や、テーマ、展開のシンプルさから題材は 40歳でももっと若い読者を想定しているのかとも思いました。

しかし、最後のエピソード「日比谷オールスターズ」を読んでやっぱりこれは作者から 40代への応援歌なのだと理解しました。 いや、これだって話はシンプルだし、「こんなにうまく行くのは小説の中だけだよ!」と突っ込みたくもなります。

それでも私は卓巳の言葉に感動させられてしまいました。ええ、単純なんです。

「じゃあ、いくぞ、四十歳から始めよう」

読書感想「星々の舟」

新幹線の発車時刻が迫った駅の本屋というシチュエーションがなければ、直木賞受賞作であることをを手がかりにしてこの本を購入することはなかったかも知れません。村山由佳の作品は (自分よりももっとずっと) 若者向けだと思っていましたから。 ところが短編にでてくる登場人物はほとんどが 30歳以上。良い意味で裏切られました。

本書はひとつの家族を中心としたつながりのある短編の連作といった構成になっています。 全編を通して悲しく切ない雰囲気がついてまわりますし、禁断の恋、不倫、いじめ、戦争等とそれぞれの短編のテーマも重いものになっていますが、さらりとした文章は必要以上にそれぞれの人物の不幸さを強調することがなく、説教臭い物語になることもありません。 形式的には不幸な話なのでしょうが、あとがきや作中に出てくる「幸福とは呼べぬ幸せ」だとか「どこかに一条の光が射すような終わり方」という言葉に納得できる内容となっています。 「博士の愛した数式」を読んだ時の読後感に似ているような気がしました。

特に感じたのは登場人物の年齢設定がちょうど良いということです。 妙にしっかりした10代や 20代の若者が出てくる小説は多いですが、本書の登場人物はそれぞれが積み重ねた年齢の分だけ何かを選んで何かを捨てていかなければならないことに悩みとまどっているように見えます。そうした彼らに私は親近感を持てました。

暁と沙恵に何故区切りがつけられないのかと怒ってみたり、重之の妻たちへの思いを男の身勝手と切り捨ててみることは簡単かも知れませんが、それを言い始めたら小説は成り立たないのです。作者が説得力を感じさせられるだけの描写をしたかどうかという問題でしょう。 自分の体験と重なるからか、日本家屋とその庭、そして庭をつくっていく母の描写やお墓参りの描写にひどく懐かしさを感じてしまいました。

作者は「いいの、気づかなくても」と思いながら書いている部分もあるそうですが、少なくともこのインタビューの中のアドレス帳の件は多くの人が気づくような気がします。

それなりに本は読み続けていたわけですが、その中で久しぶりに読書エントリを書いてみようという気になった本でした。

沖縄密約―「情報犯罪」と日米同盟

「日本は米国の属国」というフレーズはよく聞きますが、 漠然と日本はアピールの仕方が下手なだけだと思い、深刻に考えてはいませんでした。 また、「安保」と聞くと条約よりも「安保闘争」のイメージが強く、 この闘争を知らない世代の私にとっては「安保」という単語はイデオロギー色が強く自分とは縁のない事柄との認識でしたし、 沖縄も「内地」に住む私にとっては観光地のイメージが強いです。 しかしこの本を読むと確かに日本はアメリカの属国でいいようにされていることがわかります。 そして、いま行われている米軍再編が日本の負担を減らすものでは全くないことも。

沖縄返還交渉の最初で「核抜き」にこだわったためにつまづいた流れが、そのまま今現在まで続いていて私たちにとっても他人事ではないです。 例えそれが小さなつまづきであったとしてもそのまま事態が進んでしまうと、後になればなるほどその失敗を取り返すことは困難になりますが、この本を読む限りでは日本は戦略的に交渉を遂行する能力が全く無く、アメリカのいいように流されているだけのように思えます。 この流れを止めるためにも多くの人が本書を手に取ることを願い、日本における権力が民衆の特性を熟知していることがことを指摘した次の文を引用しておきます。

統治する側にとって、これほど好都合なことはなく、彼らは、民衆の弱点、すなわち瞬間的には反応するが、一過性ですぐに終わってしまうという性向を知りつくしている。

また、この本を読む上で「西山太吉事件」のあらすじも知っておくべきでしょう。

読書感想「下流喰い-消費者金融の実態」

これを読むと消費者金融業界には利用者から金を搾りとるための仕組み・手法が確立されていて、そこにはめ込まれた場合独力で抜け出すのはなかなか難しそうだというのがわかります。単純に上限金利を引き下げれば多重債務者が減るという構図ではなさそうです。ヤミ金業者に至っては自己破産者を「カネの需要がそこにあり」なおかつ「自己破産申請で “逃げられない” (=一定期間再度の破産申請が認められない)」者と見て狙っているのだそうです。言われてみると成る程と思いますが、普段付き合いがないのでこのような書籍でも読まないとなかなか業界の考え方というものがわかりません。

消費者は自衛するしかないのですが、いざお金に困っている状態になった時に目の前の現金の誘惑に抗えるかどうかというとやはり難しいということなのでしょうか。本書には止むに止まれずという例以外に、借りる目的が飲み代だったりホストクラブにつぎ込んだりというような例も出てきます。これについては自業自得という面もあるでしょうが、一回借りたのが運の尽きというような例が多数であればやはりそれは貸す側の問題が大きいのでしょう。特に若いうちは軽はずみでローンを受けてしまい、雪だるま式に多重債務に陥ってしまうという可能性は誰にでもあると思います。

もちろん消費者も賢くならなければならないわけで、消費者金融業界と聞いてテレビコマーシャルしか思い浮かばない人は必ず本書を読んだ方が良いです。「とにかくお金借りるのはまずい」とだけ考えている人もどのようにまずいのかが良くわかるので読んでみてはいかがでしょう? 本当に読む必要がある人に本書の内容が届けば良いなあ、と思いますがどうなんでしょうね…