読書感想「ウェブ人間論」

正直ボリューム不足のように思います。「そうだねー」と思うことはあっても、ウェブ進化論の時のような「そうだったのかー」という感動はなかったです。

梅田氏は世の中全体からみるとネットはこの位の位置にいて…、というような大局的なコメントが多く、Web 進化論の時の google に関しての記述から比べるとと冷めた感じを受けます。それは別に言っていることが変わったわけでなく、話の対象を google 個として設定するか、ネットの世界に設定するか世の中全体として設定するかの違いなのですが、バランスの取れた発言が逆につまらなく感じてしまいます。

私はどちらかというと平野氏の提起する、全体を変えて行くための個人の行動、のような問題を詰めて論じていった方が面白いように思うのです。梅田氏の「匿名でできることは限られている」だとか「個がサバイブ」という話はその通りだと思うのですが、そこまでで話が終わってしまうとつまらないと思います。多分現時点ではネット社会の動く原理が思ったよりも単純なのでバランスの取れた眼で見ると意外とインパクトのある言葉が出て来ないということかも知れません。

いろいろな話題を扱っているのも広く浅くという印象。著者サイドからすると議論のネタの提供ということなのかも知れませんが、このような議論はちょうど自分と同じレベルで物事を見てくれる相手がいないとなかなか発展しないですね。ネット上にいられる時間の限られる会社勤めの身としては Web 上での議論にあまり積極的になれないのが正直なところです。

「4TEEN」、「リアルワールド」、「夜のピクニック」

本は読んでいるもののきちんとしたコメントを書こうとすると何も書けなくなってしまいますねぇ。全然エントリを増やすことができません。とりあえず今日は中高生特集で書けるものを簡単に書いておこうと思います。


「4TEEN」石田衣良
この話に出てくる少年達は頭が良くて大人びている気がします。みんな物わかりが良いし、悪意がないし、大人と渡り合うこともできる。安心して読める小説ではありますが、なかなかこんな少年達いないよーと思ってしまいます。


「リアルワールド」桐野夏生
「OUT」もそうだったのですが、行動だけ見てると何でそんなことするの?と言いたくなってしまうことを心理描写により納得させてしまいます。高校生になれば誰でも多かれ少なかれ暗い部分を抱えることになるよなーと思う半面、だからこそもう少し前向きで思慮深くなることもできるのでは?という気もしました。


「夜のピクニック」恩田陸
中高生の物語ということではこの3つの小説の中で一番自然だと思いました。特に大きな事件があるわけではないのですが、1日がかりの学校のイベントの中での登場人物の内面の変化を丁寧に描いていて、その内面が一番高校生らしく感じました。自分は大人になってしまったので高校生の感性はなくなってしまいましたが、本屋大賞を受賞していることを考えると若い人達も共感を覚えるのでしょう。一押しです。

「Web 進化論 本当の大変化はこれから始まる」

ちょっと遅いですが、あちこちで薦められているようなので読んでみました。


読んでみると、漠然と感じていたことがきちんと整理されて提示されたような気がしました。インターネットを利用している人は読むようにお勧めします。既に Amazonには書評がたくさんあるのですが、それを見つつ自分の感想を書いてみます。


「Google を持ち上げて/崇拝して/凄い凄いと連発して」というようなコメントが見受けられますが、Google の考えを書いたらそれが壮大なものだったので、持ち上げているように見えた、というのが近い気がします。


それと「あちら側」と「こちら側」に必要以上に意味を持たせようとしているコメントがありますが、この言葉自体はネットの「あちら」と「こちら」を指しているに過ぎません。今は「あちら側」が主戦場になっていて、「こちら側」で勢力を築きあげた企業は既存のビジネスモデルが制約となり一気に「あちら側」にシフトするわけにはいかない、ということでしょう。


主戦場が「あちら側」だからと言って、ネットワークを使う限り「こちら側」がなくなるわけでもありません。ちょっと考えてみると、ユーザが全ての情報を「あちら側」に移してしまうことは簡単に起こらないように思えます。例えばクレジットカード番号のような重要な情報を預けるに足るものだというような信用は時間をかけて作ってゆくものでしょう。筆者もこのあたりは認識していると思います。買い物をする時に提示して終わりなのと「あちら側」に移すのではレベルが違います。


私は「ブログが信用創造装置」というのが一番共感できました。まとまった量の文章を読むと自ずとその人となりがわかってしまいますよね。これだけブログが広まったのですから、ネット上では見知らぬ人との出会った時にその人を判断する材料としてブログは十分役割を果たせると思います。

絶対音感

書店で新刊の平積みの中に新潮文庫の「絶対音感」を見つけました。以前同じタイトルのものを読んでいて、「著者も同じようだけど新刊なの??」と思い、確かめると確かに今月の日付で発行となっています。内容は変わらないようなので、「あれー、単行本ではなくて文庫で読んだと思ったのになあ」と思ってパラパラとめくると、かつて小学館文庫から出たものを新潮から出しなおした旨書いてありました。
どういう事情かわかりませんが、それだけ売れる見込みがあるということなのでしょう。


実はこの本、大部分を読んだところで飽きてしまって、最後まで読んでません。
要は絶対音感は音楽をやる上で便利だけれども、創造力や音楽センスは別の話ということでした。また、子供のうちに訓練すれば誰でも身につくそうです。


絶対音感がなくてコンプレックスを感じている人や、絶対音感はあるけどそれが何なんだろう?、
という人にお勧めしておきます。

ダ・ヴィンチ・コード

売れてそうだし、周りにも読んだ人がいて面白いといっていたので、文庫化されたのを機会に読んでみました。


ミステリーとしての話の展開や謎といった部分では、日本の作家でも同程度に面白いものはゴロゴロある気がします。やはりダ・ヴィンチ・コードの一番すごいところはキリスト教を題材として、芸術や宗教儀式等について事実に基づいた記述の上に物語を組み立てたところでしょう。日本で何故売れるのかは今ひとつわかりませんが、やはりキリスト教の様々な研究成果を取り入れて小説にしてしまい、それが面白いというのであれば、世界的なヒットになるのでしょう。


キリスト教という題材に引かれるものがあれば買ってよいと思います。特にキリスト教を深く知らない人でも面白いと思います。

「模倣犯」

今はあまりないですが、発売されてしばらくは、電車の隣の人が文庫を広げているので「何を読んでいるのだろう??」と思って(さり気なく)覗いてみると「模倣犯」だったということはよくありました。


宮部みゆきはやっぱりそれだけ売れているのですね。


というわけで「模倣犯」です。読み応えのある分量でした。内容も期待を裏切らないだけのものはありました。で、思ったこと:
・「理由」もそうだったけど、やはり単行本で出たときに読んでいれば良かったなあ。
 多分、文庫になる頃には時代が宮部みゆきに追いついてしまうのだと思います。


・最後の対決の場面はもう少し枚数を割いた方が良かったかなあ。
 ピースの発作という伏線はあるので、アリだと思うのですが、
 確かにあっけない気はします。


・水野久美の存在でだいぶ救われている…


・視覚障害ってフィクションだったのね、騙された…
という感じです。こう書くといくぶんネガティブに聞こえるかも知れませんが、基本はお勧めです。読後しばらく経ったのですが、今最後の方を読み返してみても泣けてきます。義男のせいですね。

「国家の罠」


私の読んだノンフィクションの中では一番面白かったです。


検察とのやりとりが出色で、よくもまあ独房暮らしを強いられているにも関わらず信念を曲げずに検察とつばぜり合いをすることができたものだと関心します。一番印象に残るのは「時代のけじめとしての国策捜査」があって、「逮捕されたのは運が悪かったとしかいえない」とのくだり。一般人には理解しがたい理屈ですが、一般人が国策捜査の対象になることもないのでしょう。国策捜査の対象になりえるのは「その道の第一人者」とのことなので。


この本を読み終わる頃に折りしもライブドアに強制捜査が入って、「ひょっとしてこれが国策捜査か…」と感慨深くなったものです。ライブドアの件はまだ進行中で全貌が良くわからないですが、後にホリエモンが本を書いたらどんな話になるのでしょう。何となく、この「国家の罠」ほど面白くはならないと思います。「外交」の世界が垣間見え、「検察」がどのような組織かがわかる、そんな本です。

博士の愛した数式

ちゃんとそれなりの頻度で更新しなければならないのでしょうが、仕事が忙しくなると全然ダメですね。


かと言ってグチばかりこぼして情報量0の blog もどうかなあと思うし。
(「情報量あったのかい??」という突っ込みが聞こえてきそうな…)


というわけでお手軽な読書感想エントリも加えることにしました。
最初は、「博士の愛した数式」


タイトルやキャッチコピーから「恋愛ものか?」と想像してしまいますが、そうではないです。壊れた数学博士と家政婦とその息子のやりとりを、淡々と、それでいて暖かな視線で綴った物語です。読んだ人はわかってくれると思うのですが、よくまあこんな話が書けたものだと感心してしまいます。人への愛情と数字への愛情がなければこんな話を生み出すことはできないでしょう。そういう意味で「奇跡」の物語だと思います。


原作を気に入っている時の映画化は大体悪い方向に裏切られるのであんまり興味はないのですが、全編に漂うもの悲しさを映像化できていたら素晴らしいでしょうね。


数式も愛情を注ぐ対象だったんだあ、というのが私の一番の感想ですが、本書の魅力はそれだけでなくて、特にベタつかない描写が私にとっては高得点です。