特許ファンドと特許ゴロの違い

話題にするのが遅いのですが、「家族崩壊」という見出しに引かれて東洋経済 10/25 特大号を買ってきました。 買ってから気づいたのですが、この号には「電機業界 特許大異変」というこれもまた興味を引く特集が組まれていました。

この特許関連特集には以下のような内容が含まれています。

  • 特許ファンド「インテレクチュアル・ベンチャーズ」社の紹介
  • 大手国内メーカー3社の知財担当者が語る特許ファンドに対してのスタンス
  • 多くの国内メーカーとクロスライセンス契約を進めるマイクロソフト
  • キヤノン顧問丸島儀一氏インタビュー

特許ファンドについては好意的な見方 (主に大学関係者) から否定的な見方 (主にメーカー関係者) があり、否定的な見方をする人は特許ゴロ (パテント・トロール) と本質的に同じと見ているようです。 確かに自社で実施をせず他社へのライセンス目的で特許を保有する会社の登場は、メーカーにとって特許戦略上やりにくいのでしょう。 また、「国の税金を投じ獲得した特許が自国の産業振興に寄与することなく、海外に売られてしまう」として国立大学が特許をファンドに売ることを問題視する見方には一理あるように思えます。

記事を読むと「ファンドに特許を売るメーカーもあるようだが、信じがたい行為だ」とし、またマイクロソフトからのクロスライセンス契約の申し出にも簡単にOKしないキヤノンの姿勢は際立っているように思えます。 知財戦略の最良の道は訴訟を起こすことでなく「十分な交渉と考え抜かれた契約により訴訟の芽を摘むことにある」と考える同社顧問の丸島儀一氏の言葉も興味深いです。 この記事でキヤノン&丸島儀一氏に興味を持ったときは以前のエントリでも紹介した「キヤノン特許部隊」を読むと良いと思います。

ちなみにこの号のメインである「家族崩壊」特集記事もかなり力が入っていて興味深く読むことができます。

インテレクチュアル・ベンチャーズについてオンライン記事ではダイヤモンドの新・特許ウォーズの第1部が参考になると思います。 この特集も第1部から第4部まであり、結構ボリュームがあります。

弁理士試験関連書籍情報アップデート

前回の記事を書いた後に購入したもの (ただし青本を除く) を紹介しておきます。

「著作権法」
著作権法短答試験のための勉強をどこまでどのようにやるかというのは悩みどころではありますが、大御所中山先生の書いたこの本は押さえておくべきでしょう。 弁理士志望だけでなく、ネット上の著作権に関する様々な記事を読んで著作権法に興味を持ち、「概要だけの説明記事ではかえって何を言っているかわからない。ちゃんと知識を持ちたい」という人も読んでみると良いと思います。ちと高価ですが。

「商標・意匠・不正競争判例百選」
待望の判例集だと思います。私はまだ買っただけになってしまっていますが。

「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第17版 第18版」
これも待望だと思いますが、青本のアップデート版です。値上げもしています。 Amazon にはまだ旧版も在庫が残っていたりするようですが、間違わないようにしましょう。 しかし、私はまだ購入していません…

「キヤノン特許部隊」
弁理士試験に直接役立つものではないですが、実務の一端が垣間見れる本です。 最先端の話にはなっていないかも知れませんが、モチベーション向上に役立つと思います。

その他、短答対策にWセミナーの体系別過去問集を買っています。前回の記事で紹介した過去問集は今ひとつでしたが、こちらは解説がきちんとしていてお勧めできます。(以下のリンクは今年の受験用です)


2010.10.14 追記 工業所有権法逐条解説は 18版になったので本文の版数だけ修正しています。 これはダウンロードも可能になっていますね。 前回記事のコメント欄を参照ください。

1年経っても進歩がない… - 弁理士試験

今年も受けることは受けたのですよ。弁理士試験。 結果は 30点昨年より点が下がっている orz…

でも、今年は問題が難しくなってますよね、きっと。 いくつあるか問題 (「正しいもの/誤っているものはいくつありますか?」という問題)が増えているし。 実力がある人はきちんと受かってまぐれは少ないということになるのでしょう。

この1年で子供がもう一人増えたわけですが、冷静に考えてもう少し子供が大きくならないと勉強時間の確保は無理なように感じています。 優先度から行くと少なくとも今は、

子育て (家庭) ≒ 今の仕事 > 弁理士試験

となるのです。 そんなんじゃ受からないと言われたとしても。

投げ出してしまうことも含めて、今後どういう計画で行くか考え直さなければならないと思っております。

宮口講師の略語

LEC 宮口先生の弁理士試験論文講座<知識編>を通信で受けているわけですが、先生の口からポンポンと略語が飛び出し何を言っているのかわからない時があります。そこで、同じように通信で宮口先生の講座を受ける人のためにこれまで出てきた略語を挙げてみます。 これを見て特許法のどの部分を勉強しているときに出てきた略語かわかりますか?

イ・ホ・ブン・ヘン・ユウ・ホウ・ホウ・トリ

  • 意見書
  • 補正
  • 分割
  • 変更
  • 優先権
  • 放置
  • 放棄
  • 取下げ

ショ・ホン・テ

  • 所定の書面
  • 翻訳文
  • 国内手数料

シュ・キャク・ジ・テ

  • 主体的要件
  • 客体的要件
  • 時期的要件
  • 手続的要件

ジッ・ショウ・ソ

  • 実施の事業とともに
  • 承諾を得た場合
  • 相続その他の一般承継

シュウ・カン・フ・サク・テン

  • 周知技術
  • 慣用技術
  • 付加
  • 削除
  • 転換

サ・ソン・フ・シン(・ケイ)

  • 差止請求
  • 損害賠償請求
  • 不当利得の返還請求
  • 信用回復措置請求
  • 刑事罰

チョウ・シ・ガクダン・カイ・ケン

  • 長官が
  • 指定する
  • 学術団体が
  • 開催する
  • 研究集会

ブンカイ・ショルイ・ソ

  • 文書にて回答
  • 証拠書類の準備
  • 確認の訴え

ジョウ・ラ・チュウ・セツ

  • 譲渡
  • ライセンス
  • 中止
  • 設計変更

シン・ソウ・レイ
新規性喪失の例外

ギハン
技術的範囲

まだ、特許法の途中なので (<- ちと遅い) 、他にも色々出てきそうです...

「特許法概説」オンデマンド版も入手不可 ->「標準特許法」入手

「吉藤」で通っている基本書「特許法概説」についてオンデマンド版 (受注出版) で入手可という記述を見ることがありますが、 今現在はオンデマンド版も販売を中止しているようです。有斐閣からのものと思われるメッセージを引用します。

「第13版」は平成9年の法改正までを解説したものです。
しばらく品切れでありましたが、読者の皆様からのご要望により、次の改訂までの一時的な対応として、2001年より
「オンデマンド版」を限定的に販売して参りました。しかしながら「第14版」の刊行が現在も未定であること、
また近時の法改正に対応していないことを深慮し、2003年12月末にて販売を中止することといたしました。

で、代わりに買ってしまったのが「標準特許法」です。

これ、いいと思いますよ。入門時の最初の1冊としても良いと思います。

  • 最近の改正まで対応している (H18 改正は補遺で対応)
  • 一通り読んでみようという気にさせる分量に収まっている
  • 判例・事例が多い
  • 買いやすい価格

娘が生まれたこともあってあまり弁理士試験勉強が進んでいないのですが、そろそろペースを上げなければ、ですね…

LEC 弁理士試験論文講座<知識編>のテキスト、論文アドヴァンステキスト

受講の申し込みをした論文講座<知識編>のテキストは下の3つで LEC のホームページの記述とは若干異なります。 今年から変わったようなのでホームページの記述が追いついていないのでしょう。

  • ブロック集
  • 論証集
  • 事例問題集

ブロック集には例えば以下のような項目についての説明がQ&A形式がまとめられています。

[1] 特許法の目的
 ・「発明の保護及び利用とは?
 ・法目的達成の手段として「発明の保護及び利用」を規定した趣旨は?
 ・「発明の保護」の概略を説明せよ
 ・「発明の利用」の概略を説明せよ

これが特許法なら [1] ~ [52] まであります。

論証集は各論点について対立する各説を論証の一区切り+接続詞の形でまとめて論証の流れを理解できるようにしたものです。

.....
「↓ところが」
.....
「↓そもそも」
.....
「↓とすれば」
.....
「↓これに対し」
.....

「…..」の部分が論証の一区切りです。これは LEC ホームページのサンプルをみると雰囲気がわかるかも知れません。

事例問題集は、佐藤講師いわく「簡単な」事例問題の問題集です。 これはこの説明で想像していただいた通りのものだと思います。

事例問題集はともかく、ブロック集や論証集はこれまでにない教材で論点の整理にかなり役に立ちそうです。 ちなみに宮口講師の論文講座<知識編>では事例問題集と論証集を中心に使い、ブロック集は家での勉強用とのことでした。

また、講座とは別に各法ごとの論文アドヴァンステキストも購入しました。 こちらは一行問題とそれに対する解説で、論文基礎力完成講座で使用するテキストのスーパーセットという感じです。 ボリュームとしては特許法・実用新案法では 80題+応用 15題、意匠法 29題+応用 8題、商標法 50題+応用 8題について解説され、講座テキストよりかなり多くなっています。

しばらくは論文講座<知識編>の講義を中心に勉強を進めて、論文アドヴァンステキストは必要に応じて参照という感じで勉強していくことになると思います。

LEC 弁理士論文講座<知識編> 受講開始

巷では論文試験も終わった頃なわけですが、短答試験をしくじった私は一足早く (ただしマイペースで) 来年に向けてスタートしております。昨年申し込んだ LEC 通信講座の答案締め切りが論文試験前日までなので、6月中は論文基礎力完成講座演習編の答案作成に集中し、何とか全て締め切りまでに提出することができました。 4週間で 12通書いたのですが、答案練習を始めたばかりの今はこんなものでしょう。

悲しいことに本試験での答案用紙の紙質を知ることはできなかったのですが、LEC の答案用紙は厚く万年筆でとても書きやすいです。 また、法学書院の弁理士本試験答案練習用紙も取り寄せたのですが、こちらは LEC の用紙に比べ薄めで、普通のノートのような感触です。 どちらが本試験の用紙に近いのかわかりませんが、いずれにせよ万年筆のペン先は細いものが良いと思います。 答案作成時に書き損じは二重線で訂正することになりますが、太いペン先では小さい字が書けないと思います。 (どなたか本番の用紙を体験した方はコメント・トラックバックいただけるとありがたいです。)

今回答案を作った論文基礎力完成講座の問題はいわゆる一行問題と呼ばれる制度・趣旨等を説明させる問題が中心です。 基礎力を高めるためには一行問題が適していると思いますが、最近の実試験は事例問題が中心になっています。 そこで論文については更に講座を受けた方が良いかと悩んでおりました。

結局は、何かしら材料があった方がやりやすいですし、職業訓練給付金が返ってきたこともあるので、追加で LEC の講座を受けてみることにしました。 受けることにしたのは、 短答試験直後に行われた講義 (もうストリーミング配信は終了してしまったようです) で佐藤先生が「時間が無い人は金で」と勧めておられた、「論文講座<知識編>」です。 別の講師の講義を受けてみようと今回は宮口講師のクラスを申し込みました。

今年から LEC の通信講座は「音声ダウンロード」 を選択して受講できるようになっています。 .WMA ファイルを iTunes で変換して iPod に入れて持ち出すことができ、前回のカセットに比べて快適です。 今時カセットプレーヤーだと何を聞いているのかと興味を持たれてしまいますが、そのようなこともありません。 カセットのように収納にかさばることもないし、通学より安価な料金設定も魅力です。

さて、今週になって論文講座<知識編>の1回目の教材が届きました。 宮口先生の講義を聞きましたが、佐藤先生の講義とはかなり異なります。

  • 宮口先生は 60点を確実に取る (宮口基準6割≒本試基準8割だとか) ための講義で必要以上に深くは突っ込まない。 佐藤先生は深くいろいろな要素を検討するし、論文を書くにあたってただ項目を挙げるのではなく文章の流れをとても大切にする。
  • 話すペースは佐藤先生の方が速い。電車の中で聞くには宮口先生の方が良いように思います。 ただし、身構えて集中して聞くとペースが遅く感じるかも。

以前に比べ実力がついているはずなので、その辺も多少の影響はあるかも知れませんが、 頭に入らなかったり認識できなかったりで巻き戻して聞き返す回数は圧倒的に佐藤先生の講義の方が多いです。 まあ、講座が異なりますし、どちらが良いというものではないレベルの話だとは思いますが、 個人的にはできるだけ複数の講師の講義を受けた方が良いとは思います。 LEC では無料視聴できる講義が用意されています (「特別公開講座」のストリーミング配信や「講座無料試聴」等) ので、どのクラスか悩んだときは試しにこれを聞いてみるのも手だと思います。

次回はここ1ヶ月で増えた教材について書いてみます。

MYUTA 訴訟の判決文を読んでみよう

全然勉強の進んでいない著作権法ですが、話題となった判決があるのでこれの判決文を眺めてみました。 MYUTA 訴訟 (平成18年(ワ)第10166号) の判決です(判決文別紙)。 裁判官が一太郎の判決で有名な裁判官ということはありますが、先入観を捨てて判決文を読むとネット上のもろもろの記事は、判決文が出る前に書かれたものが多いこともあって的をはずしているものが多いように感じられます。 もちろん (主に専門家による) 的を射た記事もあるのですが、判決文を読むことでそのような記事の理解も更に深まります。 そこでこの判決の内容を簡単に整理してみたいと思います。

ことの経緯は、イメージシティがユーザ手持ち楽曲をサーバ経由で携帯電話に転送できる MYUTA の試用サービスを提供していたところ、JASRAC より著作権法違反の指摘があったため、試行サービスを止めた上で著作権侵害に当たらないことを確認するために訴訟を起こした、というものです。イメージシティはサービスの有償化を予定していました。

さて、裁判所の判決の概要です。

  • インターネットを経由してアップロードされた 3G2 ファイルをサーバのファイルシステムに複製する行為 (=先の「別紙」の説明図中④の過程における複製行為、以下「④」とは説明図中の④を指す) の主体は原告(=サービス提供者)であり、原告はサービス提供により管理著作物の複製権を侵害するおそれがある
  • 送信行為の主体も原告である。ユーザは原告にとって「公衆」であり携帯電話への 3G2 ファイルダウンロードは自動公衆送信行為に該当し、管理著作物の自動公衆送信権を侵害するおそれがある

つまりこのサービスは複製権と自動公衆送信権の侵害にあたるという判断ですが、この2つについて個々に見ていきます。 まず複製権の話について見てみます。 ④の複製の主体を MYUTA のユーザでなく原告だと認定しているのですから、私的複製云々は関係ありません。 判決文中に④の複製の主体が原告だという判断の元になった6つの事実が示されています。

  1. 原告の提供しようとする本件サービスは,パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象として,CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるようにするものであり,本件サービスの説明図④の過程において,複製行為が不可避的であって,本件サーバに3G2ファイルを蔵置する複製行為は,本件サービスにおいて極めて重要なプロセスと位置付けられること
  2. 本件サービスにおいて,3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等中心的役割を果たす本件サーバは,原告がこれを所有し,その支配下に設置して管理してきたこと
  3. 原告は,本件サービスを利用するに必要不可欠な本件ユーザソフトを作成して提供し,本件ユーザソフトは,本件サーバとインターネット回線を介して連動している状態において,本件サーバの認証を受けなければ作動しないようになっていること
  4. 本件サーバにおける3G2ファイルの複製は,上記のような本件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され,本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネット回線を介して連動した状態で機能するように,原告によってシステム設計されたものであること
  5. ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することは,技術的に相当程度困難であり,本件サービスにおける本件サーバのストレージのような携帯電話にダウンロードが可能な形のサイトに音源データを蔵置する複製行為により,初めて可能になること
  6. ユーザは,本件サーバにどの楽曲を複製するか等の操作の端緒となる関与を行うものではあるが,本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や,ストレージでの保存に必要な条件は,原告によって予めシステム設計で決定され,その複製行為は,専ら,原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであること

いわゆる普通のオンラインストレージサービスと異なるのは、クライアント側に専用ソフトウェアをインストールすること (3、4) と、個人が携帯電話に曲を転送するのは簡単でない (5) というところだと思います。 ですのでこの判決だけで全てのオンラインストレージサービスが違法になったというのは言い過ぎですが、 ここで問題となっている複製行為はファイルをアップロードする際にサーバのファイルシステムに書き込むことを指しているわけで、クライアント PC で行われる 3G2 への変換処理を指しているわけではない点に注意が必要です。判決ではクライアント PC での処理については言及していません。つまり適法とも違法とも判断していません。 携帯電話への楽曲転送が難しいのであれば、HTML の文法チェックも難しいと判断される可能性があるだろう、との見解もあります。

次に自動公衆送信権について見てみます。 まず、送信行為の主体ですが、④の複製行為同様、判決では携帯電話へのファイル送信行為も主体はサービス提供者としています。判断の元となった事実はユーザソフトに関するくだりを除いて複製のところで掲げたのと同様のものが並んでいます。

続いてユーザが「公衆」にあたるかですが、 問題は送信する行為を音楽ファイル個別に見るのか、サービス全体で見るのかという点です。 判決では以下の通りサービス全体で判断して、例え認証により音楽ファイルをユーザに紐付けたとしても、 サービス提供者にとってユーザは「公衆」にあたると判断しています。

なお,本件サーバに蔵置した音源データのファイルには当該ユーザしかアクセスできないとしても,それ自体,メールアドレス,パスワード等や,アクセスキー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別の結果,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ, 他の機器からの接続が許可されないように原告が作成した本件サービスのシステム設計の結果であって,送信の主体が原告であり,受信するのが不特定の者であることに変わりはない。

形式的には送信行為の主体をサービス提供者とするとユーザは「公衆」に当たるようにも思えますが、 専門家の批判には公衆送信はファイルごとの観念ではないかという指摘があります。 判決では「受信者は不特定」としていますが、これは誰でも所定の手続きを踏めば MYUTA を利用できるということを指しています。 蛇足ですが、著作権法上は「特定かつ多数の者」も「公衆」となりますので、 サービス全体で論じてしまうと、ユーザは「多数の者」であることは間違いないので不特定かどうかはあまり意味がなくなります。

著作権法の趣旨云々についてコメントはしません/できませんが、 判決の内容を理解せず的をはずした批判で不当な判決と断じている記事が多く、 あまつさえ裁判官個人へのバッシングにつながっている状況はまずいと考えます。 裁判官は法令に従って判断を下すだけで、法令を変える権限を持っているわけではないことに注意が必要です。 本エントリが多くの人の判決の理解につながればと思います。

弁理士試験勉強これまでとこれから

弁理士試験1年のまとめシリーズの最終回です。 今回は初学者へのヒント (になるのか?) と自分の今後の予定です。

試験に合格するためにまずは条文の構造がわかってこないと話にならないですが、これが大変です。 多くの条文は他の条文を参照したり準用したりしていますが、後ろの条文が前の条文を参照するだけでなく、 前が後ろを参照したり、他の法令の条文を参照したりで、最初はスパゲッティのようにぐちゃぐちゃに思えます。 それでも理解が進んでくると何故その条文がその位置にあるのかや他の条文との関係も少しずつわかってくるようになります。 条文の番号 (=条名) もだんだん覚えていきます。 最初の1回では無理でしょうから、あきらめず何度も繰り返し読み返すしかないでしょう。

また、準用の部分はどうしても読み飛ばしたくなってしまうのですが、 読み替え含め丁寧に読まないとなかなか理解が深まりません。 早い段階からきちんと読むクセをつけておいた方が良いでしょう。

次は国語の問題なのですが、 微妙な言葉の差も最初から意識して読み取れるようにしておくと良いと思います。 以下は例に過ぎませんが、見落としてしまいそうなこの程度の差でも意味が大きく変わることを最初から知っておくべきです。

  • 「出願の日前」 : 「出願前」
  • 「必要な図面」 : 「図面」
  • 「その商品」 : 「商品」
  • 「ことができる」 : 「しなければならない」 : 「みなされる」

私の場合ですが、特許法から勉強を始めて最初のうちは特許法の趣旨やら出願手続きやらで頭に入って来やすかったですが、 審判あたりから「何じゃこりゃ?」となってしまい、審判、再審、訴訟の手続きがごっちゃになってしまいました。 まずは出願からの大きな流れをこれらも含めてきちんと理解することが必要ですね。

さて、自分の今後ですが答案提出期限があるので、6月一杯は LEC の論文基礎答錬を行い論文試験のための勉強をする予定です。 その後については、まずは来年の短答突破を目標としてやっていこうと思います。 今回の短答試験の特実意商では「問題文の意味はわかるし、何がポイントかもわかるけど、実際の条文ってどうだったっけ?」 というような問題がそれなりの数あったので、これを減らさなければなりません。 後は未習として残ってしまったところを淡々と進めることですね。もちろん論文対策もしますが、どこまで仕上げられるかは現段階で何とも言えません。 弁理士試験ネタの blog エントリもぽつぽつと増えていくのではないかと思っています。

弁理士試験勉強の教材について

実力がないと言ってはそれまでなのですが、短答試験の見直しをしていると何故この枝を選んでしまったのだろう、 と後悔してしまう問題がいくつもあります。更にそんな問題の正答率が8割超だったりすると悲しくなります。 頑張らねば。

さて、弁理士試験1年のまとめシリーズ3回目である今回は自分の用いた教材について簡単にコメントしてみたいと思います。 ただし、私は勉強を始めてやっと1年経ったばかりでまだ短答試験すら合格しておらず論文試験以降の対策は手付かずということをご理解の上お読みください。

工業所有権法逐条解説 (通称「青本」)
特許庁の担当者が各条文ごとに解説をしたものです。結局1年目はこの「青本」を読み込むことはできなかったのですが、必要に応じて何度か参照しました。 必須の基本書とされています。

改正本 (平成14年~18年)
青本で足りればよいのですが、悲しいことに青本は平成13年に第16版が出されてから改訂されていないのです。 そこで改正があるたび (=1年毎!) に出される「改正本」を読んで改正された部分を理解しなければならないのです。 そろそろ出し直してもよい頃だろうに… なお、改正本の内容は特許庁ホームページより PDF でダウンロードできますが、私は紙媒体で手許に置きたかったので印刷の手間を考え書籍を購入しました。

知的財産権法文集
当然ながら条文集も必須です。私は PATECH 企画より出されているものを使いました。 手ごろな大きさで、関連条約はもちろん民法や民訴法なども関連する条文が抄録されているので基本的にこれがあれば足ります。 平成18年度版 (このときまでは「工業所有権法文集」という名前) と平成19年度版の2冊を購入することになりました。

産業財産権四法対照法文集
特許法、実用新案法、意匠法、商標法の四法を比較できるよう並べて書いた法文集です。 昨年はさっぱり使いませんでしたが、短答の勉強に入り「そう言えばこんなのも買ったっけ」と思って開いたところとても役に立ちました。 平成18年度版 (このときまでは「工業所有権四法対照法文集」) のみ購入しましたが、このような使い方ならば 19年度版の方を買うべきだったと悔やんでおります。これ一つで条文集を済ませるのでなく、あくまで四法の比較用という使い方が良いと思います。

弁理士試験 BASIC
LEC より出ている入門用の参考書です。受講した講座の申し込み時のキャンペーンで1、2、3巻をもらいました。 ただし、私は入門講座のテキストの方を中心に学習したので、BASIC はあまり活用しませんでした。 独学する場合の入門用には良いと思います。

短答アドヴァンステキスト
LEC より出ている短答試験対策の参考書です。 短答基礎力完成講座のテキストにも使われているのですが、短答試験対策にはこれが一番役に立ちました。 条文ごと過去問や練習問題がならび、昨年の短答問題もきちんと収録されています。 これをもう少し時間をかけて勉強していれば、という思いがあります。

特許判例百選
特許関連の重要な判例集です。 最初は読んでも眠くなるだけでしたが、学習が進むと少しずつ面白さがわかるようになってきました。 参考書に出てくるような判例はまずこれに載っているので、出てきたものから読んでいくのが良いと思います。 これもそろそろ改訂版を出して欲しいですね。

法令用語の常識
「A ないし C」が「A or C」でなく「from A to C (= A, B, C)」の意味ということを知り、 これは法令用語を覚えなければと買ったのがこの本です。 法令で用いられる様々な言葉の解説がありその法令の理解が深まります。 しかし弁理士試験でこの本の内容全てが必要かというとそうでもない気がします。 条文の繊細さを理解するためには良い本だと思います。 ちなみに「ないし」はこの本には出ておらず、国語辞典に載っているレベルの話でしたね…

法律学小事典
法律の初心者だと「罪刑法定主義」って何?「譲渡担保」って? ということになってしまうのですが、 そのような時に引くのがこの事典です。 同種の事典はいくつかあると思いますが、今のところこれで不満はありません。

弁理士受験新報
弁理士試験用にも雑誌が出ているのですね。 短答前の4月分 (No. 28) と5月分 (No. 29) のみ買いましたが、連載ものが多いのでできれば続けて買った方が良いのでしょうね。 今の私だと積読になってしまいそうです…

弁理士短答式問題と解説 平成18年度
弁理士短答式年度別問題集 平成12~17年度
安価なので購入しましたが、解説がビミョーなところがチラホラ。更に解説だけにとどまらず問題にも脱字があるし。 (「被請求人」が「請求人」になってはまずいでしょう…) 残念ながら正誤表見当たらず。安価だから仕方なし、か? 先の「短答アドヴァンステキスト」があったから良かったのですが、これだけだとまずかったと思います。


2008. 8. 6 追記
2008.6 に青本の改訂版が出ています。その他にも重要な本が出ているので記事にまとめました。


2010.10.14 追記
最近出版されたものを追記です。 他に重要なものがあればコメントで教えていただければと思います。