ソフトシンセ時代のシンセサイズ入門 (基本編)

Cubase のような DAW ソフトを買えばおまけ (?) としてプラグインシンセがついてきますし、KOMPLETE 7 のようなバンドルパッケージを買うと一挙に複数のシンセ (しかもそれぞれが結構複雑!) が手に入ってしまいます。 いい時代になったものです!

とは言ったものの、実際にはシンセの音作りが良くわからないのでプリセットを選ぶだけで終わっている人が多いのではないかと推測します。 シンセのプリセットはクセの多い音が多く、そのままだと作成中の楽曲に当て嵌めにくかったりするので、気づいたらシンセを全く触らなくなっていた、というような人も結構いるのではないでしょうか。 この記事はそのような方々のためにシンセの音作りの基本を説明します。

本格的な音作りはしなくても、シンセサイザーのサウンドメイキングの基本を知っておくことは役に立ちます。 シンセの音作りを知れば、欲しい音を具体的にイメージしやすくなるので音選びに役に立つでしょうし、プリセットを素材としてそれを調整し納得の行くよう自分の楽曲に合わせることができるようになります。 確かに現代のシンセはパラメータが膨大になっていますが、音作りの基礎を覚えておけばそれらの意味を理解することも容易くなるでしょう。

今回は基本編として、シンセサウンドを構成する基本要素を説明します。 サンプルを聴きながらそれらの要素の働き・効果を理解できるようにしています。 読みやすい分量にまとめているので説明を端折っている部分もありますが、まずは「そんなものか」というのを掴んでいただければあとは実践で何とかなると思います。

本エントリは、当初は jPlayer を使っていましたが、2012年11月からは SoundCloud を用いてサウンドを提供するようにしました。

シンセサイズの基本要素

オシレータの波形選択

シンセの基本原理はオシレータ (発振器) で出力した波形を加工して音に仕上げることです。 原波形がわからないほど過激な加工をすることもできなくはないですが、基本は選んだ波形の特徴を生かす音作りとなります。 ですので波形の選択はとても重要です。

オシレータの波形としては、シンセ黎明期から使われている鋸波等のシンプルな波形の他に実際に存在する音 (主に楽器のサウンド) をサンプリングした波形も用いられます。 中には手書きで波形を書いてしまえるようなシンセも存在します。 自分の気に入ったプリセット音はどの波形が使われているかを確認してみましょう。 最もよく使われる代表的なシンセ波形を以下に3つ挙げておきます。

鋸波 (SAW)

矩形波 (SQUARE, PULSE)

サイン波 (SINE)

加算処理 (ミックス)

多くのシンセサイザーは複数のオシレータを持っています。 波形をミックスすることでより厚い音や複雑な音をつくることができます。 オルガンのドローバーを引き出して音を変えるように、多数の倍音を加算して音作りするようなシンセも世の中には存在します。

例えばサンプリング系でもノイズと弦そのものの音を別のサンプルで用意してミックスみたいな話はありますね。 ここでは、一例として鋸波と1オクターブ上の矩形波をミックスした音を聴いてみましょう。

鋸波->矩形波->ミックス

実際の音作りではオシレータレベルだけでなく様々なレベルでミックスが行われます。 複数の異なるシンセパッチを重ねて一つのサウンドを作ることも普通に行われています。

減算処理 (フィルター)

フィルターで音を削ることを減算処理と呼びます。 通常シンセで使うフィルターは LPF (ローパスフィルター) で、主要パラメータはカットオフ (どの程度開くか) とレゾナンス (どれだけクセをつけるか) です。 これらのパラメータはよく演奏中にリアルタイムコントロールされます。

ここではフィルターのカットオフ (開き具合) を変えることでどのように音が変わるか聞いてみましょう。

フィルター[開]->[閉]->[開]

FM 合成 (周波数変調)

いわゆる「ヤマハ DX シリーズ」の音作りの方法です。 オシレータの出力波形を別のオシレータで周波数変調 (FM) すると元の波形にない倍音を作り出すことができます。

FM シンセの世界を楽しむために覚えておいた方が良い、いくつかの用語を説明しておきます。 元のオシレータを「キャリア」、変調する別のオシレータを「モジュレーター」といいます。 モジュレーターの出力を上げればにぎやかな音になるし、下げればシンプルな音になります。

また、FM シンセの世界ではオシレータの代わりに「オペレーター」という言葉も使います。 「6オペレーターシンセ」と言えば、キャリアやモジュレーターとして使えるオペレーターを 6つ搭載しているということです。 最近の FM シンセ (FM8 等) はどれをキャリアにしてどれをモジュレーターとするかを完全に自由に組み合わせることができますが、DX シリーズではいくつかのプリセットパターンから選んでいました。この組み合わせパターンを「アルゴリズム」と呼びます。

難しい理論の話をしてもきりがないので、ここではこれらの用語を覚えて実際の音を聴くところまでにしておきましょう。 モジュレーターの出力を変えた時の音の変化を確認してください。 (キャリア+モジュレーターの 2オペレータ、[キャリア周波数]:[モジュレーター周波数]= 1:1)

モジュレーター出力[小]->[大]->[小]

フィルターの変化と似ているかも知れませんが、フィルターは倍音を削る処理、FM 合成は倍音を増やす処理です。 つまりフィルターは原波形をおとなしくして FM 合成はにぎやかにするという逆方向の処理になっています。 なので、フィルターで音作りする場合は倍音を多く含む鋸波や矩形波がよく使われ、逆に倍音を作り出す FM 合成のモジュレーターとしてはシンプルなサイン波がよく使われます。

モジュレーション (エンベロープ、LFO等)

ここまでシンセ音色を決める要素を見て来ましたが、いくらこれらのパラメータを工夫したところで時間的変化を与えなければつまらない持続音にしか聞こえません。 音に時間的変化を与えることを一般的に「モジュレーション」と言います。 モジュレーションという言葉は場面によっていろいろな使われ方をしますが、ここでは広義の「音に時間的変化を与える」すなわち「シンセの構成パラメータを変化させる」という意味で使います。

パラメータを変化させるときのソースとして使える代表的なものは以下の3つです。

  • エンベロープ
  • LFO
  • コントローラー

また、変化させる対象としては主に以下のものがあります。

  • オシレーター出力レベル (Amplitude)
  • フィルター
  • ピッチ

それぞれ見ていきましょう。

鍵盤を押してからの変化をプログラム:エンベロープ

鍵盤を押してからの経過時間や出力レベルを設定してそれに従った変化を起こす仕組みをエンベロープと言います。 エンベロープの基本形は ADSR (Attack – Decay – Sustain – Release の 4パラメータで設定する) 方式のものですが、より多くのレベルとタイムを設定できたり、ループ設定が可能だったりするシンセも存在します。 オシレーター出力レベルにエンベロープを設定することで単純な持続音が減衰音に変わります。

ENV オシレーター出力レベル

ただし、同じオシレーターの仲間でも、FM シンセのモジュレーターの出力レベルを変化させた場合は、音色の変化になります。 これは先ほどの FM 合成サンプル音で聞いた通りです。

その他のモジュレーション対象についてエンベロープをかけた場合はどうなるかも確認してみましょう。 エンベロープをフィルターカットオフに対してかけるとフィルターの開き具合が変化し、音色と音量の変化になります。

ENV フィルター

エンベロープをピッチにかけると音程が変わります。

ENV ピッチ

このようにエンベロープと一口に言っても何をモジュレートするかで効果が変わります。 どこをモジュレートすればどのような効果が得られるのか理解することが大切です。

周期的な変化:LFO

LFO は低周波オシレータ (Low Frequency Oscillator)、つまり周期の長い波形をつくる発振器で、周期的な変化を作り出すことができます。 LFO の基本パラメータは波形、周期、深さです。 ここでは LFO の波形の違いがどのような効果をもたらすかを確認してみましょう。 いずれもピッチに対して LFO をかけ、LFO 波形を変えています。

LFO サイン波

LFO 鋸波

LFO 矩形波

LFO ランダム (S/H)

今回はピッチをモジュレートしていますが、エンベロープと同様、オシレータ出力レベルやフィルターをモジュレートすることもできます。

手動で変化:コントローラー

もう一つ、重要なモジュレーションソースとしてはコントローラーがあります。 リアルタイム演奏では、パラメータが割り当てられたモジュレーションホイールやスライダー/ノブ等を操作し、音を変化させることがよく行われます。 真っ先に思いつくのは、フィルターカットオフを割り当てて、フィルターを閉じたり開いたりすることです。 DAW 環境でも様々なパラメータをオートメーション機能で変化させることができます。

コントローラーにエフェクトパラメータを割り当てることも良くあります。 ディレイやリバーブのパラメータを変えて、ここぞというときに深い効果を狙ったりします。

ここまでモジュレーションソースと対象を個々に見て来ましたが、実際の音作りではこれらは組み合わせて用いられ複雑な時間変化を構成することになります。

シンセの分類

ここまでが理解できれば、次にすべきは自分のシンセにどのようなパラメータが存在して何ができるかを知ることです。 基本編の最後として世間一般のシンセ分類を簡単に説明します。

アナログ (タイプ) シンセ
主に減算で音を作り出すシンセサイザー。 使用できる波形は鋸波中心の単純な波形のみ。 波形のクセとフィルターの特性がそのままそのシンセのキャラクターとなる。 アナログはデジタルと比べると合成処理がいい加減で波形が歪んだりしているが、逆にそこが良さになる。 なので、ソフトシンセではわざわざ歪みを含んだ波形を用意していたりする。
FM 音源
主にFM合成で音を作り出すシンセサイザー。 金属っぽい響きをつくるのが得意。
PCM 音源/サンプラー
主に実際に存在する音を録音 (サンプリング) した波形を使用して音作りを行うシンセサイザー。 波形の量と質が重要となる。
倍音加算方式
多数のサイン波を加算処理して複雑な音を作るシンセサイザー。
物理モデリング
ここまでで説明したような処理ではなく、楽器が発音する物理法則に基づいた演算処理で音作りを行うシンセサイザー。 音作りにはモデルの理解が必要。 例えば、「弓を動かす速さ」とか「弓を弦にあてる強さ」のようなパラメータを調整して音作りする。

最近のシンセはハイブリッド型になっていて、単純にどのタイプと言い辛くなっていますが、ここまでの説明をきちんと理解してそれらの要素の組み合せと捉えれば何とかなると思います。 これで、あなたもシンセシストの仲間入りです! と言っても、本当に基本を理解しただけなので、いきなりシンセを自由に操るのは厳しいでしょう。 また、この記事では触れませんでしたが、各種エフェクトも音作りの大きな割合を占めます。 というわけで、次は KOMPLETE 7 にバンドルされているシンセを使った実践編をやります。


2012.11.28 追記 SoundCloud を用いてサウンドを提供するようにしました。

「ソフトシンセ時代のシンセサイズ入門 (基本編)」への1件のフィードバック

  1. 素晴らしい記事です 鋸波のぶーという音に痺れます

    シンセサイザーの世界は楽しそうで

    こころひかれます

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